「最悪」
仕事帰りに買い物をして帰宅する途中に嫌いな人を見かけた。
「最悪だ」とつぶやく。
相手も私に気付いたようで、声をかけようとしているのが分かったので、その場を離れた。
その日は最悪な日になった。
「誰にも言えない秘密」
誰にも言えない秘密。それはだれにも言えない。絶対に知られないようにする。
もし秘密を知られたら、私はトボケるだろうな、きっと。
「狭い部屋」
私の実家の自分の部屋は、狭い部屋だった。
小学生くらいの時、親に「なんで、私の部屋は狭い部屋なの?もっと広い部屋に住みたい!」と言った事がある。
「私たちの子供の頃は、自分の部屋がなかったり、もっとせまい部屋だったよ。我慢しなさい」と、
親は私に言った。私は、何も言えなくなってしまった。
思春期の頃、色々な事で悩んでいた。その時は、自分の部屋が狭い部屋で良かったと初めて思った。なぜだか、安心感があった。
それ以来、悩み事があると、安心感を得たり、自分の考えをまとめたりして落ち着く事が多くなり、狭い部屋、自分の部屋にこもる事が増えた。
社会人になり、広い部屋がある一軒家を購入した。広い部屋に住むことが夢だったから。思春期の頃の経験を活かして、1部屋だけ狭い部屋を作った。
私は、これからも狭い部屋で安心したり、落ち着いたりする事があるだろうなと思った。
「失恋」
私は、涙を流して泣いていた。涙をハンカチで拭いても拭いても涙が溢れてくる。
失恋をしたのだった。ショックだった。辛い。好きなあの子が幸せだといいなぁ。と思った。
外は、土砂降りの雨が降っていた。
私の失恋が、この土砂降りの雨で流してほしい。と外を見ながらそう思っていた。
「私、幸せになるぞ!」と自分に喝を入れた。
私は、空き教室を出ていった。
「正直」
高校生の時、学校の帰り道、河川敷に座って私達は話をしていた。
「正直言って、私はあなたの事が大嫌いだよ」
突然、君はそんな事を言ったから、私は驚いて目を丸くした。
「なんで?」
「あなたは、私の大嫌いな人に似ているもの」
「そっか。それは悲しい」
私は下を向いた。
「でも、あなたは悪くないから、謝っておく。ごめんなさい」
「ああー。言いたい事を言えてスッキリした」
「あなたは、私の事をどう思っている?」
「正直で嘘を付けない。そして言いたい事は、ハッキリ言える人」
「そう。意外と高評価で驚いた」
「あなた、自分の考えを人に押し付けてはいけないわ。私の祖母のようになってしまうわよ」
「もしかして、君の大嫌いな人って?」
「私の祖母」
ボソッと言った。
「そっか。忠告ありがとう」
「別に」
君はそっぽを向いた。
「クラスに馴染めない者同士、仲良くなれそうな気がする」
「私とあなたが?私はあなたの事、大嫌いなのに?」
私は頷いた。
「君がそばにいてくれると、私は、自分の考えを相手に押し付けないようする事が出来そうだから」
「そう。私も話し相手が欲しかったから。別にいいけど」
「やった!高校生になってから初めての友達だ」と私は思わず言った。
「私もそうだけど。そんなに喜ぶもの?」
「うん!」
それから、私達の関係は社会人になっても続いていて、今は、ルームシェアをして一緒に暮らしている。
「ふふっ」とリビングで椅子に座って私は1人笑っていた。
ドアを開ける音がした。君が帰ってきたのだ。
「おかえり!」
「ただいま」
「何を見ているの?」
「私の日記」
君は私の隣に座って日記を覗きこんだ。
「ふーん。いつの時の?」
「高校生の時。君と私が友達になった時の」
「そう。懐かしいな」
「うん」
「高校生の時から私、自分の考えを相手に押し付ける事がなくなって、相手の気持ちを考える事が出来るようになったよ」
「そう。それは良かった。誰のおかげかな」
「君のおかげだよ。ありがとう。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく」
二人共、笑っていた。
「君は丸くなったよね」
「ああ。たぶん祖母が亡くなってから解放されたからじゃないかな。結局、最後までわかり合えないままだったけど」
「そっか。君のいいところは、変わらないよね。正直で嘘をつけない。物事をハッキリ言うところとか」
「それは、あなたがそれは君のいいところだから大事にしてって言ってくれたからだよ」
「えっ?そんな事あった?」
「うん。私もいつの間にか、あなたに支えられていたんだ」
「そう」
「あっ!そうだ。あなたの好きなクッキーが売っていたから、買った。一緒に食べよう」
「わぁ!ありがとう!うん!食べよう」
これからも私達の関係は続いていくといいなと私は思った。