『隠された手紙』
「私がこの世から消え去ったとき、
何か残るのか
、、否。
地位もなければ功績もない。
故に何も残らない。
私が遺すものは無に等しく
私が生きた証は遺らない。
君に託す すべてのものは
この世の未来への手紙。
これが最後。
強く生きなさい。
私の分まで。 」
名前のない、手紙。
遺品整理のときに見つけた。
親父の
隠された手紙。
俺が10年前 手に掛けた、
親父の存在。
ちゃんと残っているじゃないか。
『バイバイ』
最後に会ったのは、
如月に入る前だったか
私の知らないところで
私が知らないときに、
私を置いて、
何処かへ行ってしまうの。
最後に会ったのは、
睦月、雪が轟々と吹き荒ぶ中で
鼻の下までマフラーを巻いて
バイバイと手を振った。
もう希望がない、
あの試験の帰りに。
『イブの夜』
ちらちらと降る雪。
鳴り響くクリスマスソング。
きらびやかなイルミネーションの電飾。
すきだよ、
なんてあちらこちらから聞こえて、
手を繋ぐ男女の影。
もう、
この世界は、私には眩しすぎる。
きっと、こんな色付いた世界が。
きっと、この世界に、
私は釣り合わない。
イブの夜。
街明かりとは逆の、
私の心は
耐えきれない。
もう、この世界なんていらない。
もう、こんな世界なんて
私にはもったいないから。
『ゆずの香り』
早くいなくなってしまいたい
消えてしまいたい
もう忘れ去られてしまいたい
自己嫌悪、自己嫌悪の繰り返し。
冬の夜に静かな街で
積もった雪に静かに
大の字に寝そべった。
頭から足先が震える中で
隣の家の風呂の湯気。
暗がりに佇む白い湯気から
ほんのりと、
ゆずの香り。
こんな状況でも、
なんだか心が落ち着く気がする。
もう息絶えてしまいたいのに。
まだこの世界で生きていたいなんて
『イルミネーション』
#2)
だって、貴方がいなければ、
みんなこの過去はなくなってしまう。
すべて、
この心に残った温もりも、
貴方の声も、顔も、やさしさも、
全部。
どうして
いなくなってしまうの
私は、
私の中のガラスの器は、
いつまでも空っぽのまま。
一緒に飲んだコーヒーも、
手を繋ぎながら見たイルミネーションも。
きれいだね、なんて言いながら。
その記憶を最後に。