『私だけ』
はじめは、なんともなかった。
ただ、周りの子達と笑って過ごせる毎日が欲しかった。
それに憧れた。
でも、日に日に居心地が悪くなっていった。
ただ、楽しい日々が欲しかっただけなのに。
自分だけ、遅れを取っているような気がした。
会話の内容にはついていけず、
自分から話しかけない限りは、話さず、
遠足のバスでは一人席にされた。
なんでだろう。
気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
なんか、
私だけ。
私だけ。
『遠い日の記憶』
まだ、微かに残っている、記憶。
もう数十年も昔のことだけれど、
映像として、記憶している、
あの頃の話。
微笑みながら、私の頭を撫でる母。
喜びながら、私の脇を掴んで、持ち上げる父。
時間をかけて作られた、祖母のあたたかい料理。
眼鏡の奥で微笑む、祖父の瞳。
お姉ちゃん、と見上げる弟のまるい顔。
もう、詳しいことは、覚えていないけれど
昔の記憶が、此処に訪れるたびに、蘇る。
もう、あの人たちとは、会えない。
数十年も昔のことだけれど、
映像として、記憶している、
命の灯火が、消えた瞬間。
そして私だけが、生き残った。
生き残ってしまった。
それだけが、遠い日の記憶。
もう、ほとんど残っていない
微かな記憶。
『空を見上げて心に浮かんだこと』
朝は、よく澄んだ青空だったのに。
どんより、灰色の雲。
そしてポツポツと降ってくる雨。
気持ちは斜め右下がり。
──いつだったか
よく晴れているのに、雨が降る。
その水に、明るい太陽の光が乱反射して、虹が見えた。
研ぎ澄まされた空色と、少々の白い雲、
そして七色で構成された虹の、色の対比が
いつになっても忘れられない。
笑顔で、泣いているような気がした。
そんな気がして、私もそんな風に泣ける日が来るのだろうか。
なんて、そんなちっぽけなことを思いながら、
空を見上げる。
このまま、彗星でも落ちてくれば良いのに。
『終わりにしよう』
もう、なんだか疲れてしまった。
流行には追いつけず、
SNSや、周りの情報に流される日々。
タスクには追われ、
目標には手を伸ばすだけの日々。
昔と、今。
この10年で、私のどこが変わったんだろう。
後退していなければ、前進もしていない。
いや、何もしなければ、人間は衰えていくだけの生き物だ。
実質、私は後退していることになる。
いつか変わろう、なんて、上を見上げたとき、
私の目は、きっと輝いていた。
なんの望みすら残っていない私に、
これ以上、何を求めるのだろう。
もう、終わりにしよう。
何もかも、この世界で。
『星空』
夏の日の夜、一番暗い時間に空を見上げると、
数え切れないほどの光が、点々と空を覆っている。
息をのむほどに美しく、
目を見開くほどにたくさんの星が輝いていた。
そこには、ちらりと、
落ちながら線を描くものもあった。
けれど、もうこの場所では見られない。
夜でも明るいこの街は、眠らない街。
昔のような星は、もうここでは見られない。
いつの間に、変わってしまったんだろう。
自然な星の明るさから、
人工的な街の明るさまで。
なんだか、汚れてしまったような、気がする。