『落下』
見せて
そう言われた瞬間に、身体が軽くなる。
身体の向きを変えてみると、
目を丸くして、こちらを見る彼女。
スローモーションのように、コマ送りで流れていく視界。
アニメーションのように、ただ淡々と0.03秒ずつ流れていく画像。
地上を背にした背面からは、凄まじい風が吹く。
髪は揺れ、重力に逆らい、
身体は落ち、重力に逆らうこともなく。
慣性なんて嘘のように。
強く、強く、
地面に叩きつけられる。
そうか。
文字通り、私はあの子の足元ってことか。
文字通り落ちて、
堕ちたのか。
『未来』なんてない、この現実に。
『未来』
過去は過去で、
未来は未来
なんて思うけど、
1秒先の未来なんて現在だし、
すべてがそんなはっきりとした未来じゃない。
未来の僕らへ。
遠い、未来の僕らへ。
10年後の未来がどうなるかなんて、
わからないけれど
きっと
この未来が眩しくなるみたく
なんとなくでいい。
こんな未来になれと、
なんとなく、
未来の、希望を願う。
その希望が、
どんなに遠くとも。
『1年前』
──1年前、
私、何してたっけ。
そう考えると、苦しい思い出しかない。
友達に容姿をからかわれ、罵詈雑言。
テストの点が悪いだけでバカと言われ、
部活も馬鹿にされ、
さらには勉強の努力さえも否定された。
受験生だったこともあり、危機感はあったが、ここまで言われるとは思ってもいなかった。
やる気は失せたが、そんなことをしている場合ではない、と深夜に必死にやっていた気がする。
今までの成績もあり、推薦は貰えなかったが、一般試験で合格した。
その、私を馬鹿にした奴らとはほぼ同じくらいの偏差値の学校。
それに、そいつらの学校よりも校風、文化、行事は充実している。
もう彼らにはぐうの音すら言わせない。
もう、彼らが私を振り返る頃には、そこに私はいない。
その、はるか前に進んでいるから。
もう、私は彼らが思う、私じゃないから。
1年前と、いつまでも振り返っていればいい。
その間に、私は1年後まで進んで行くから
『あいまいな空』
曖昧。
毎日眺めるこの空は、好きになる日と、
好きじゃない日がある。
広く、澄んだ綺麗な水色の空が好き。
黒く、曇った薄暗い灰色の空が嫌い。
透明な、綺麗な空から降る雨は、心を洗い流してくれる気がして。
でも、何故か ぎこちない。
なんだか、この空に、気持ちが左右されている気がして。
空なんて所詮、神様の気分かな。
それくらい あいまいな空が、
私を曖昧にしているのかもしれない。
例えば、気分屋だってこととか、ね。
『あじさい』
この時期になると、あじさいがきれいに見えるようになる。
雨がポツポツと音を立てながら、あじさいの葉の上に落ち、滴る。
その上をノコノコと歩いていた蝸牛は、雨に打たれて丸くなったかと思えば、ころんと落ちた。
空は灰色。
日の光は非常に弱く、少々薄暗い。
その中でのあじさいはコントラストが強く、より存在を際立たせる。
──紫陽花の花言葉は、移り気、浮気、無常。
毎年、無常なあじさいに、そこら辺の花から移り気をして、見とれる。
雨さえなければ、美しいのに。
…いや、雨だからこそ、その存在が美しいのか。