好きになれない、嫌いになれない
スーパーへ買い物に行くたびに夫が
「アイス買う?」
と聞いてくる。
夫はアイスが大好きだが、私は大して好きでもない。
食べたいなら買う?と言うと、いや別にいいよ、と答える。
結局二つ買って帰ると夫はすぐ自分の分を食べてしまって、後から私が
「じゃあ私も食べようかな」
と言うと、「うんうん」となぜかとても嬉しそうな顔をするのだ。
きっと自分だけが食べたいからではなくて、私も食べたくて買ったことにしたいんだろうな…と思うけれど、その理由は分からない。
ただあんまりにこにこ嬉しそうなので、何となく私もアイスが好きな気分になってくる。
夜が明けた。
ストーカー気質の僕の彼女は、いつも
「私からは逃げられないよ」
と言う。
そういう言葉にゾッとする人も多いだろうが、僕は全然平気だ。
束縛が強いのも気にならないし、マメな連絡も苦になるどころか嬉しい。
それにこれは例え話ではない。
彼女はテレポーターなので、実際にいつでもどこでも僕の所へ飛んで来れるのだ。
ちなみに僕は今、山中を遭難中だった。
サークル仲間との退屈なトレッキングではぐれてしまい、気づけば電波も届かない木、木、木ばかりの山奥。
本来なら心細くて仕方ないところだが、遭難を知ってすぐ彼女がテレポーテーションで来てくれた。
熱いスープを僕に手渡しながら
「一人でしか飛べないダメな能力者でごめんね。この場所も地図で特定出来なくてごめんね…」
そう言って、しょんぼりうつむく彼女はとっても可愛い。
尾根筋で二人で毛布にくるまり星を眺めていると、まるで世界に僕らしかいないみたいだ。
残念だね、もうすぐうっすら夜が明ける。
ふとした瞬間
彼女は最近悩んでいる。
ふとした瞬間、息子の顔がぐにゃりと歪んで見えるのだ。
二人の孫たちの姿も、ヌメヌメした緑色に見える。
目を擦ったり瞬きすれば戻るのだが、このところ頻繁なので、少し不安になり
「歳のせいかしらねぇ…」
そう言うと孫たちは笑い飛ばすし、息子は気のせいだよと優しく言ってくれるのだが…。
さてその夜、密談する三つの影があった。
ヌメヌメした緑色のエイリアンたちだ。
―どうも屈光シールドが壊れたらしいぞ…精度が悪くなっている…
―シールドは我々の命綱だ…すぐ母星に連絡を…
―やってみたが…そちらで対応しろとのことだ…
―何だと…またか…もうやってられんな…
彼らは潜入工作員。
異星で危険な成りすまし任務を行っているというのに、いつもながら上層部が無責任すぎる。
やはりどの星でも、トラブルは現場に丸投げのようだ。
「こっちに恋」「愛にきて」
恋人たちの休日は、朝のLINEから始まる。
―おはよう 晴れてるね どこか遠出する?
―いいね どこで会う?
すぐにでも出かけたそうな、でも実は二人ともまだそれぞれのベッドの中だ。
のろのろ起きて、ゆっくりコーヒーを淹れて、音楽を聴いて、動画を見て、何だかんだで気づけば昼。
―ちょっと遅くなったから もうこっち来る?
―うーん そっちこそ 会いに来たりしない?
二人は似た者同士、かなり強めのインドア派なのだ。
気持ちはあるけど本当はどこにも出かけたくない、でも恋人には会いたい。
映画を観て、ネットショッピングして、ゲームをして、部屋で楽しくダラダラしながらも、相手が今ここにいてくれたらなぁ…と寂しく思っている。
そんな二人がどちらからともなく、一緒に住む?という話になり、理想の休日を過ごすようになるのは、まだ少し先の話だ。
巡り逢い
ツバメの夫婦が、新居の内見に来ている。
電線と家の玄関を行ったり来たり、巣作りの下見のようだ。
ここ二年ほど来ていなかったので、すっかり嬉しくなり
「今年はツバメが来るみたい」
と夫に言ったら
「いやそうとも限らないぞ」
とのこと。
夫が見たときは、ツバメたちはお向かいの玄関を熱心に調べていたらしい。
お向かいも人気物件なので、さてどちらが選ばれるか、こればかりは巡り合わせだ。
巣作りから巣立ちまで、玄関下の掃除は大変だし、卵が無事に育つかハラハラし通しだけど、またあの可愛い雛たちに逢いたいな。
大家はそっと待っています。