NoName

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4/28/2025, 3:33:45 AM

ふとした瞬間

 彼女は最近悩んでいる。
ふとした瞬間、息子の顔がぐにゃりと歪んで見えるのだ。
二人の孫たちの姿も、ヌメヌメした緑色に見える。
目を擦ったり瞬きすれば戻るのだが、このところ頻繁なので、少し不安になり
「歳のせいかしらねぇ…」
そう言うと孫たちは笑い飛ばすし、息子は気のせいだよと優しく言ってくれるのだが…。

 さてその夜、密談する三つの影があった。
ヌメヌメした緑色のエイリアンたちだ。
 ―どうも屈光シールドが壊れたらしいぞ…精度が悪くなっている…
 ―シールドは我々の命綱だ…すぐ母星に連絡を…
 ―やってみたが…そちらで対応しろとのことだ…
 ―何だと…またか…もうやってられんな…
 彼らは潜入工作員。
異星で危険な成りすまし任務を行っているというのに、いつもながら上層部が無責任すぎる。
 やはりどの星でも、トラブルは現場に丸投げのようだ。

4/25/2025, 2:48:34 PM

「こっちに恋」「愛にきて」

 恋人たちの休日は、朝のLINEから始まる。
―おはよう 晴れてるね どこか遠出する?
―いいね どこで会う?

 すぐにでも出かけたそうな、でも実は二人ともまだそれぞれのベッドの中だ。
 のろのろ起きて、ゆっくりコーヒーを淹れて、音楽を聴いて、動画を見て、何だかんだで気づけば昼。
―ちょっと遅くなったから もうこっち来る?
―うーん そっちこそ 会いに来たりしない?

 二人は似た者同士、かなり強めのインドア派なのだ。
気持ちはあるけど本当はどこにも出かけたくない、でも恋人には会いたい。
映画を観て、ネットショッピングして、ゲームをして、部屋で楽しくダラダラしながらも、相手が今ここにいてくれたらなぁ…と寂しく思っている。

 そんな二人がどちらからともなく、一緒に住む?という話になり、理想の休日を過ごすようになるのは、まだ少し先の話だ。

4/25/2025, 4:20:25 AM

巡り逢い

 ツバメの夫婦が、新居の内見に来ている。
電線と家の玄関を行ったり来たり、巣作りの下見のようだ。
ここ二年ほど来ていなかったので、すっかり嬉しくなり
「今年はツバメが来るみたい」
と夫に言ったら
「いやそうとも限らないぞ」
とのこと。
 夫が見たときは、ツバメたちはお向かいの玄関を熱心に調べていたらしい。
お向かいも人気物件なので、さてどちらが選ばれるか、こればかりは巡り合わせだ。
 巣作りから巣立ちまで、玄関下の掃除は大変だし、卵が無事に育つかハラハラし通しだけど、またあの可愛い雛たちに逢いたいな。
 大家はそっと待っています。

4/23/2025, 12:24:46 AM

big love!

 僕らが若くて希望に満ち溢れていたころ、もっと遠い大きな未来を夢見ていたころ。
皆の思いを背負って大海へ漕ぎ出した冒険者がいた。

 時が経ち僕らは年老いて、足元ばかり見るようになった。
身近な幸せ、小さな楽しみ、手の中の小箱に使い捨ての夢を映して。

 けれど冒険者は今も孤独な旅を続けている。
僕らのメッセージを携えて、遠い遠い未知の宇宙へ。

 ボイジャー1号2号へ。
僕はただのSF好きの子供だったけれど、夢を現実にしようとした君たちを忘れない。
 いつか未来のどこかでまた会えますように。
地球より、大きな愛を込めて。


4/21/2025, 3:00:39 PM

ささやき

 ウィスパーボイスが生理的にダメだ。
あの息もれ声を聞くとぞわぞわムズムズこそばゆく、身体を捩りたくなってしまう。
なのに今、俺の耳元で女の幽霊がずっと恨み言をささやいている。
 『恨めしいわ…あいつが恨めしい…はあぁ…』

 事故物件を承知で格安の部屋を借りたのは俺だし、幽霊の一人や二人どうってことはないのだが、このささやき声だけは我慢出来ない。
 「おい!」
俺はついにブチギレた。
「こそばゆいんだよ耳が。もっと大きな声で言え!」
そう怒鳴ると、幽霊はびっくりして目を剥いた。
青白い顔がみるみる嫌悪感に歪み、両手で耳を塞いで俺を睨む。
『最低…大声出さないでよぉ…』
 蚊の鳴くような声で吐き捨てて、幽霊は消えてしまった。

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