ささやき
ウィスパーボイスが生理的にダメだ。
あの息もれ声を聞くとぞわぞわムズムズこそばゆく、身体を捩りたくなってしまう。
なのに今、俺の耳元で女の幽霊がずっと恨み言をささやいている。
『恨めしいわ…あいつが恨めしい…はあぁ…』
事故物件を承知で格安の部屋を借りたのは俺だし、幽霊の一人や二人どうってことはないのだが、このささやき声だけは我慢出来ない。
「おい!」
俺はついにブチギレた。
「こそばゆいんだよ耳が。もっと大きな声で言え!」
そう怒鳴ると、幽霊はびっくりして目を剥いた。
青白い顔がみるみる嫌悪感に歪み、両手で耳を塞いで俺を睨む。
『最低…大声出さないでよぉ…』
蚊の鳴くような声で吐き捨てて、幽霊は消えてしまった。
4/21/2025, 3:00:39 PM