NoName

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5/11/2023, 4:15:58 AM

あの日のことは今でも鮮明に覚えているわ。
私がちょうど2回目の"おはよう"をした日。
ちょうど今日と同じような、暖かくて、透明なせっかちさんも、珍しく、楽しそうに泳いでいた日。

緑のまぁるいベッドも、
赤や黄や紫のドレスを着たあの子たちも、
金ぴかのまぁるいあの子を囲んで楽しそうに踊っていたの。

そのときにはじめて気づいたの。
私と同じ、白くてふわふわのあの子たちが金ぴかのあの子の周りで踊っていたのよ。



前の"おはよう"の時にもきっとあそこにいたのね。

でも、前の"おはよう"の時には緑の美味しいベッドに夢中で私は気がつかなかったのよ。
そういえばその時の私は緑色のお洋服を着ていたかしら。

しばらくご飯に夢中になって…
少ししたらとっても眠くなってきて…



思い出せないけどしばらく"おやすみなさい"をしていたのね。


それから2回目の"おはよう"をしたの。
2回目の"おはよう"は白いドレスだったから、同じ白のふわふわのあの子に会いにいくことにしたの。

透明なせっかちさんの背中に乗せてもらってしばらく浮かんでいたわ。

その間金ぴかのあの子はあっちへ行ったりこっちへ行ったりいなくなったり大忙し。
あの子がいないとみんな真っ黒になって悲しんでしまうから人気者なのね。きっと。



そして、どのくらいたったかしら。
白いあの子がだんだん暗い色になってきて、涙を流し始めたの。

私、吃驚してきいたわ。
「何か悲しいことでもあるの?」って。
だって世界はこんなに素敵なのに、悲しいなんて不思議じゃあない?

でも、あの子は答えずに泣き続けたの。
たっくさん流した涙が私のドレスに溢れて…
透明なあの子を急がせて…


気が付いたときにはここにいたわ。
茶色の景色に緑のカーテン。
1回目の"おはよう"の頃の景色とおんなじ。

でも今は違うわ。
遠くの方に見えるあの子。白いふわふわのあの子。

よかった。
今はいつもみたいに楽しそうに笑っているのね。
やっぱり、あの子は楽しそうにしているのが一番素敵だわ。




−少し眠くなってきちゃった…

あの子に会いにいけなかったのは残念だけど、
次の"おはよう"で会いにいけばいいわね…

私の次のドレスは何色かしら…?
楽しみね…





"おやすみなさい"

5/10/2023, 2:25:13 AM

空想が好きだった

叶わない願いも、度胸の伴わない夢も、存在しないものも何もかもそこにはあって良いから
そこに等身大のスケールは無いから

でも、いつしか気付いてしまう
その空想に意味はないこと、意味のないことに時間を割けるほどの余裕が自分には残されていないことに


空想が嫌いになった

日々に刻まれた数字が自分の形を痛いほどに写してしまうから
型取られた自分の直径が限界の距離だと知ってしまったから


やがて切削された形は1/1すら失った。
自身の定義を簒奪した破片の塊がそこにはいた。
その頃には空想は失われていた。


それでも忘れられない
いや、忘れたくない

辿り着けないほどの遠大な宇宙は、
その実、
自身と形を同じくする等身大の実像であったことに気付いたから


だから、願って歩くのだ。
最早叶わぬ願いと知っていても、
この骸はそのためだけに動いているのだから。