しいな ゆん

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10/13/2022, 9:45:35 AM

ぽっかりと時間が空くと、まざまざと自分の孤独を感じる。
放課後という、長い、長い自由時間。
「やる事」に集中出来る授業中とは違い、タイムリミットのある昼休みと違い、やる事の特にない翌日までの長い長い時間。

校内にはまだ多くの人が残っている。

廊下の友人同士で交わす会話のざわめき。
グラウンドから聞こえる部活動の声。

そのどれにも属せない私はとても孤独で、
そのどれにも属さない私はとても自由だ。

自由は時に後ろめたくて。
自由は時に息苦しい。

皆が待ち遠しいその時間が、とても苦手だったあの頃。

あの檻。

あの広いようで小さな水槽。

私の苦手な、自由時間。


お題/放課後

10/11/2022, 4:49:53 PM

景色を透かし揺れるレース。
繊細なそれを覆う布は様々で、華やかな花柄、可愛らしい小花柄。
静かな重厚感を感じる布は厳格で、ダマスク柄は気品溢れる貴婦人か。
纏う布によって雰囲気を変える、その様はまるで景色が纏うドレスのよう。

けれども逆に窓の外から中を覗けば、私の居場所を彩るドレスになるのだろう。

風に揺れる裾。
ちらりと覗く私の世界の彩りは、きっと貴方の視線も奪いさるから。

お題/カーテン

10/11/2022, 7:48:49 AM

手のひらに取り出した、甘い、紅い、楕円形のそれを口へと放り投げる。
それが入っていた缶を軽く振ればガランガランと音がして、小さな丸い穴から覗き込めば中には色とりどりの緑。黄色。紅。の宝石のようなそれ。

ドロップス。

昔聴いた童謡に、ドロップスら神様の涙だと言う歌詞があったっけ。
朝焼けを見て泣いて、夕焼けを見て泣いて、甘い涙を流したというのなら、その涙の理由はなんだったのだろう。

オレンジの空を眺めて、甘い口の中を噛み締める。

その光はとても眩しくて、でもどこか寂しい。
人恋しくなる時間に、神様も誰かが恋しいと泣いたのだろうか。

ならばこれは。


僕が君を思う涙も、こんな甘さになるのだろうか。


お題/涙の理由

10/9/2022, 11:37:55 AM

街中の音をオーケストラに見立てて歩き出す。

人通りの少ない、日差しの穏やかな道はadagio。
鳥の囀りに、木々の囁きに踏み出す足取りはまるでwaltz。

ガヤガヤとした、賑わう通りはmoderato。
人に当たらない様に、波を縫う足取りはきっとquickstep。
でも、遅刻しそうな時はpaso dobleかもしれない。
ほら、洋服の裾を翻して。
急いで。
急いで。

友達との待ち合わせに向かういつもの道はaccelerando。
楽しみに段々と弾む足取りはchachacha。
飛んで、跳ねて。
ねぇ、今日は何して遊ぶ?

そして、君と会う今日の足取りはvivace。
ああ、きっと着く頃には髪は乱れてしまっているだろう。
でも、逸る気持ちに足が追い付かないの。
縺れそうな足取りはまるでjive。
君を前にしてrumbaを踊れるような大人の余裕を、まだ私は持ち合わせてないの。

待ち合わせ5分前。
手鏡を覗き込み取り繕う身だしなみは、上がる息に見抜かれてしまうだろうか。

足音とかけられた声に振り向けば、少し乱れた髪と息を切らした君。

君の刻んだステップも、私と同じものであればいい。