しいな ゆん

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街中の音をオーケストラに見立てて歩き出す。

人通りの少ない、日差しの穏やかな道はadagio。
鳥の囀りに、木々の囁きに踏み出す足取りはまるでwaltz。

ガヤガヤとした、賑わう通りはmoderato。
人に当たらない様に、波を縫う足取りはきっとquickstep。
でも、遅刻しそうな時はpaso dobleかもしれない。
ほら、洋服の裾を翻して。
急いで。
急いで。

友達との待ち合わせに向かういつもの道はaccelerando。
楽しみに段々と弾む足取りはchachacha。
飛んで、跳ねて。
ねぇ、今日は何して遊ぶ?

そして、君と会う今日の足取りはvivace。
ああ、きっと着く頃には髪は乱れてしまっているだろう。
でも、逸る気持ちに足が追い付かないの。
縺れそうな足取りはまるでjive。
君を前にしてrumbaを踊れるような大人の余裕を、まだ私は持ち合わせてないの。

待ち合わせ5分前。
手鏡を覗き込み取り繕う身だしなみは、上がる息に見抜かれてしまうだろうか。

足音とかけられた声に振り向けば、少し乱れた髪と息を切らした君。

君の刻んだステップも、私と同じものであればいい。

10/9/2022, 11:37:55 AM