目が覚める前に、なんとか解決策を考えなければ。
これは夢だ、ということにはさっき気がついた。
僕はたまに予知夢を見る。西日が照らす大通り、僕は彼女と並んで歩いていた。行き先はカラオケ店。僕と彼女は合唱部で出会ったので、二人とも歌うのが好きだ。だから放課後の小さなデートではよくカラオケ店に行く。現実ではよくクラスの男子から羨ましがられるが、そんな平和な時間はこのままではもうすぐ終わってしまうかもしれないということが今回の夢でわかった。カラオケ店の目の前の横断歩道。今日は何を歌う?なんて話しながら渡っていると、どこからか現れた黒いフードを被る男が現れ、彼女が刃物で刺されたのだ。男はその後逃走した。残されたのは、僕と、苦しげに横たわる彼女。そういえば現実で数日前に、帰りのホームルームで担任からストーカーに関する情報が伝えられていた。もうとっくに捕まっているものだと思っていたが、どうやら此奴は他の生徒をストーカーした後、今度は僕の彼女を標的に選んだようだ。相手がストーカーとなれば、仮にカラオケ店に行くのを取りやめたところで別の場所で刺されるかもしれない。だから決めた。夢と同じ横断歩道で、僕が彼女を庇って刺されればいい。
そしてその作戦は現実で上手くいった。
現実。病院のベッドに横たわるのは、私の彼氏。カラオケ店に行く途中の横断歩道で黒いフードの男に襲われそうになった私を庇って刺された。すぐに救急車を呼んで、幸い命は助かったが、まだ彼は目を覚まさない。私には彼に聞きたいことが山程あった。彼氏は横断歩道に差し掛かる直前から辺りを見回していたし、横断歩道に刃物を持った男が現れた時もそこまで慌てず、むしろかなり落ち着いていた。さっと私と男の間に入り込んだ彼は、私を庇って刺された時も、苦しみながらも安心したかのように薄っすら微笑んでいた。まるでこうなることを知っていたかのように。最近学校で噂になっている未来予知ができる学生の正体はおそらく私の彼氏なのだろう。でも、こんなにボロボロになるまで一人で未来を背負ってほしくない。私も彼の力になってあげたい。いつも一人で抱え込んでしまう彼を説得する方法を考えなければ。彼が目を覚ます前に。
病室。時計の秒針の音だけが響く静かな場所。
ろくに遊べもしないこの場所で、患者はベッドに横たわる。起きている間は本当に退屈だが、寝てしまえば問題ない。何せこの病院の別名は神様病院。この病院のベッドで寝ると、神様とその使いの天使が夢に出てきて、一緒に遊んだり、悩みを聞いてくれたり、時には命のエネルギーを貰えたりする。なので、この病院では、重篤な症状で救急搬送されてきた人以外の死者は少ない。だから入院患者は毎日安心してこの病院で生活し、安心して眠りにつく。
ただし神様病院には欠点がある。それは、退院していまえば神様の御加護がなくなってしまうこと。この病院では入院中に亡くなる人は少ないが、退院直後に亡くなる人はそれなりにいる。
「〇〇さん、あと1週間程で退院できますよ」
医師から告げられるそれは、通常の病院であれば患者は喜ぶ。だが神様病院でのそれは、余命宣告のようなものである。
隣の病室にいる1週間後に退院する人の余命は
あと何日だろうか。
明日、もし晴れたら、電車に乗ってどこかへ出かけたい。
動画やアニメなど、
スマホの中の世界に閉じ籠もってばかりの毎日も
楽しいけれど、
外にはまだ見ぬ素敵なものが満ち溢れているはずだ。
帰りはスマホのマップアプリがあれば家に辿り着ける。
だから行きは降りたことのない駅で降りて、
地図を見ずに気の向くまま歩き、
色んな景色を見てみたい。