びーえるですよ。
つい先日、腐れ縁の幼馴染が何でかめでたく恋人になった。
変わり映えしない雑談。
ふざけ合う日常。
そして。
そっと繋ぐ机の下。
指と指が意味を持って繋がれるそれ。
少し気恥ずかしくて甘ずっぱい。
「イチャつくタイミング難しいな」
顔を見合わせて笑った。
いつもと変わらないじゃれあいの先のほんのり赤くなるその頬が俺の密かなお気に入り。
俺のびゅーてぃほーな彼氏のはにかむようなその笑顔。
好きだなぁって思う。
いやむしろ大好き。
力いっぱい抱きしめ殺したい!!
見惚れてると目と目がばっちり合って訳もなく笑ってそれから。
視線に熱がこもるのを感じて堪らず顔を近付ける。
すると向こうも自然と近付いてきてそっとくちびるを合わせた。
軽くキスして気恥ずかしくてすぐ離れる。
「なんかこーいうの照れるな」
「なー。むしろ付き合う前の方が気軽に出来てたな」
「確かに」
見つめ合って笑い合う。
「でももう俺はダチには戻りたくねーな」
そう言って勢いよく引き寄せると彼は大きく目を見開いてそしてこれでもかってぐらい微笑んだ。
ほら見て俺の彼氏超絶可愛い。
そのまま勢いで彼のくちびるに軽く噛みついた。
「お前…」
「まじお前食べちゃいたいがぶがぶー」
何度も何度も彼のくちびるを甘噛みして食べる真似をする。
彼は笑いながら俺を引き剥がそうと試みてるけどその手が本気じゃない事を俺は知っている。
まじで可愛い俺の恋人。
普段は変わらない腐れ縁の幼馴染だけどその中に最近ひょっこり顔を出すこの甘い時間が俺のお気に入りだったりする。
(お気に入り)
どんな状況でも、どんな状態でも舞えればそれでいいと思っていた。
「おまえは芸と命、どちらを選ぶ?」
その昔、そう問われたとき迷う事なく芸を選んだ。
でも旦那と出逢ってしまってからはそれが正しいのか分からなくなった。
命がなくなってしまったら旦那の前で2度と踊れまい。
それは嫌だいやだ。
命あれども2度と踊るなと言われると舞わないわたしに旦那は興味を持ち続けてくれるだろうか。
考えたくもない。
舞台の上に立ち回り演じ舞う。
それが生涯の願い。
それは今でも変わらない。
それでも、
わたしが何よりも望むのは。
旦那にわたしの演じる姿を見てもらう事。
わたしが妖艶に舞台で何者かになり得るその姿の視線の先にはあなたに居てほしい。
その頬に満足そうな笑みを浮かべ笑って褒めてほしい。
わたしは誰よりも旦那に見て欲しいんだ。
そのために視線の角度そのしぐさ指の先まで貴方の求める貴方を惹きつけられるその舞いを共に離れるその日まで舞い続ける。そう決めた。
誰よりも誰よりも貴方に。
その心にわたしのその姿を置いてて欲しいんだ。
🍁(誰よりも)
今度はアダルティなびーえるで。
「なにそれ」
広めのソファーに横たわりだるそうに机の上のお洒落な袋を視線で示しながら聞いてくる同居人。
「あぁ、これ?」
その袋を摘み上げて見せる。
「バレンタインのチョコレートだって」
「誰にもらったの?」
「同じ大学の…」
説明しようとして冷たい視線を送られてる事に気付いて慌てて付け足す。
「お前にだよ。渡してってさ」
毎度のことだけど参っちゃうよね。苦笑しながらソファーの彼を見ると不機嫌な顔と視線がぶつかる。
「お前はそれを受け取ったのか?」
「そだよ、ダメだった?」
いつもより声が低い。
「別に…」
今日の彼は機嫌が悪い。
何かしたのだろうか。
「食べてみる?何だか美味しそうだよ」
シンプルだけどお洒落な装飾で包まれたそれは送り主のセンスの良さが伺えた。
渡した本人も美しいひとだった。
思わず受け取ってしまったけど本当は…。
無言でずっと見つめられていて居心地が悪い。
こんなもの受け取らなきゃよかった。
恨めしくチョコレートを睨みつけてしまう。
「食べさせて」
突然破られた沈黙に聞こえて来たその言葉を理解出来なくて無言で彼を見返してしまう。
「食 べ さ せ て」
ゆっくりと低い声で一字ずつ丁寧に発音される。
食べさせて。
脳内でまたゆっくりそれをなぞって信じられなくて自分を指差してそれから彼を指差す。
それを見届けた彼は目は笑っていない意地悪そうな微笑みで持って頷いてみせた。
「いや、でも…ねぇ」
もはや何て答えていいか分からずに訳もわからない言葉を発してしまう。
「いいから、早く」
声がより一層低くて怖い。
おずおずと綺麗に飾られたその箱を開けてみる。
一つ一つが丁寧に作られた豪奢なチョコレートたちが並ぶ。
その中のひとつを摘んで彼の元へ行き口元へ運ぶ。
彼はちらりとこちらを見上げそのまま俺の指ごと口の中に含んだ。
指に絡みつく熱に手を引こうとするが手首を掴まれて取れない。
そのままさらにねっとりと舌でなぞられる。
俺を見つめたまま離さない。
しばらく執拗に指に絡み付いていたその舌からやっと解放された。
「甘すぎる…」
「チョコレートだからね」
動揺を気付かれまいと舐められたその指先を後ろ手に隠しながら何でもないように答える。
「まだ…」
「甘いって言ったのに、また食べるの?」
「早くよこせ」
目で指図してくる。
仕方なくまた一粒口元に差し出すと。
「そうじゃないだろ」
俺の唇をそっと指でなぞって笑う。
「それはちょっと…」
逃げの態勢に入る俺の腰を逃げれないように掴まれた。
近づいて来るその顔に逃げるように自分の口を手でカバーする。
「手をさげろ。キス出来ねぇだろ」
真っ直ぐ射抜くような視線で命令されて仕方なくおずおずと手を外すと、それと同時に俺の手から奪われたチョコレートを口に含んでそのままキスされた。
閉じてた口の間にねじ込むようにチョコレートが入って来て甘さが口の中で広がった。
中からとろりと流れ込むアルコール。
甘さと熱さを味わってるとそこに割り込んでくる彼の熱いその舌が。
俺の口内を自由気ままに蹂躙する。
押しのけようとしてもどこまでも追いかけて来て絡まれ吸われる。
息も上手く出来ないままむしゃぶり尽くされてやっと解放された。
「やっぱり甘すぎるな」
自分の口を舐め上げながら呟く彼に酸素が足りない俺は反応が出来ない。
「お前相変わらず息継ぎ下手くそだな」
離さないのは誰だよ…!!と言いたいけど疲れて声が出ない。
恨めしい視線だけ送った。
いつの間にか機嫌も治ってるし。
「なに…?」
にんまり笑いながらなおも近づいて来る彼に逃げようとしたけど遅かった。
「チョコもいいけどやっぱり俺はこっちがいいな」
そう言って引き寄せられてまた深い口付けをされる。
いつ終わるかも分からない口付けにめまいを感じながらそのまま目を閉じた。
(バレンタイン)
昨日フライングでバレンタインネタをあげた直後のこのお題発表…。1人戦慄するあたし。
そんなにバレンタインネタなんかないよ!!!(笑)
こりずにびーえる。
「はっぴぃばれんたいん!」
そんな声と同時に現れた彼は大きなバラの花束を抱えて入って来た。
「はい、俺の気持ちだよ」
渡されたその花束のバラの本数は33本だった。
“何があっても変わらない愛”
それを意味している。
この前は11本。あなたひとりだけ。
その前は1本。あなただけ。
どんどん増えていく。
その意味はちゃんと理解している。
だけど素知らぬふりで受け止める。
知らないふり。
気付かないふり。
「ありがとう。おれ食べ物がよかったなー」
なんて目を合わさないでいると不意に手首を掴まれて顔を覗かれる。
「俺には?俺にはなんかないの?」
思わず意識してしまいそうなのを知られないように咄嗟にその手を振り解く。
「あ、あるよあるある!」
ほらこれ。なんて彼の目の前に差し出したそれ。
「これなに?」
目の前に突然差し出された箱を不審げに見つめている彼に。
「開けてみてよ」
丁寧にその箱を開ける彼は、そこから出て来たものを不思議そうに見た。
「これなに…アップルパイ?」
「そう、それ!俺が作った!」
「お前が!?何これ食べれんの?」
「お前何気に失礼だな!!」
「うそうそ。嬉しいありがと」
決して上手に作れてないそのアップルパイと言い張っているそれを目の前の彼は嬉しそうに見つめる。
「これ食べてみてもいい?」
「どーぞどーぞ」
味に保証は出来ないけど。
彼はあらかじめ食べやすくカットしてたアップルパイをひとつ摘んで口に入れる。
それを心配そうに見つめて様子を伺っていると。
彼は味わうように咀嚼してひとつ頷いて笑った。
「美味しいよ。君も食べて」
そのひと口かじったアップルパイをおれの口元に運んでくる。
少したじろいで後ずさるけど追いかけて来るから諦めてそのままかじった。
さくり。
見た目は悪いけど味は成功したみたいだ。
安心してるおれに向かって突如伸びて来た手に驚いて身を引く。
「口の端。付いてる」
そのままなおも伸びて来た手に口の端を軽く拭かれた。
「ありがと」
お礼を言うとにっこり笑われた。
「でも何でアップルパイ?俺好きって言ったっけ?」
「それともこれもなんか意味があったりする?」
「いや別に」
「ふぅん」と何やら納得してない様子でスマホを取り出す。
「何してんの?」
「いや。アップルパイの意味調べようと思って…」
「別に調べなくていいよ!!これと言って意味なんてないから」
慌てて彼の手からスマホをひったくる。
スマホを取り返すべく伸びて来た手に取られまいと必死でスマホを遠ざける。
後ろ手に隠したスマホ。
取り返すその手。
図らずしも抱き付かれるカタチになった。
「絶対何か意味あるでしょ」
近くで見つめられて必死で目を逸らす。
「円周率!!」
「…は?」
必死で叫んだおれの言葉が理解出来なくて彼は間抜けな声を出した。
「円周率ってなにそれ」
「円周率は円周率だよ。π(パイ)!」
「もしかしてパイってあのπ?」
やや間をあけて呆れたように聞き返す。
「駄洒落かよー」
ぎゅっと抱きしめられた。
「もっと深い意味であってくれよー」
ため息をついてさらに力を込めて抱きしめる。
「深い意味って何だよ」
笑いながら答えるけど心は乱れてる。必死だ。
「そりゃあ、好きとか。死ぬほど愛してるとか?」
「馬鹿じゃないのお前」
「ひどい」
「お前こそ頭おかしいんじゃないのか?」
「俺はいつでも本気だよー。あいしてるー」
なおも一層ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「はいはい」
適当に返事してその背中を軽くポンポンと叩く。
「俺はいつでも待ってるからなー」
耳元で聞こえた声は聞こえないふりした。
アップルパイの贈り物の意味は永遠に続く愛。
その意味を彼は知らなくていい。
まだ彼の想いには応えられないから。
でもいつか。
いつかちゃんと言うから待ってて。
おれも、お前が好きだよ。
(待ってて)
長い長い遠征から旦那が帰って来たとの知らせを受けて急いで駆け付けた旦那の屋敷。
「帰って」
そう奥様に撥ねつけられた。
「旦那が帰って来てると聞いた」
「誰のせいでこうなってると…!!!」
何故だかすごく怒っているようだ。
旦那に何かあったのだろうか。
嫌な予感がする。
「奥様お願いだ。旦那に合わせてくれ」
「一目でいいんだ」
追い縋って袖を掴んで必死で懇願する。
「離してよ!!」
奥様は振り払おうと必死だがこちらも譲るわけにはいかない。
「一目でも、一目でもいいんだ!!お願いだから」
うんざりしたのか奥様は俺が掴んでた袖をもぎ取りながら睨みつけた。
「もう勝手にして。自分の目で確かめるといいわ!」
道を開けられたその隙間を駆け抜けるように旦那のいる寝室に向かう。
そこで目にしたのは目を閉じたまま横たわる旦那の姿だった。
「もう長いこと目を覚まさないわ」
いつの間にか横に来てた奥様に話しかけられた。
「身体中怪我だらけだし目も開けない」
射抜くように目が合った。
「あなたのせいよ」
「あなたがあんな事しなければこの人はこんな目に遭わなかった」
静かにたんたんと責められる。
よろよろと駆け寄り旦那の身体を必死で揺すると周りから止められた。
「何してるの!!」
そんな声を無視してさらに旦那の身体を揺する。
「旦那!旦那!!目を開けてください!!」
何度も何度も語り掛ける。
それでもその目が開く事もあの憎たらしい笑みですらも見ることが出来なかった。
旦那はずっと昏睡状態で居るらしかった。
「いつまで居るのよ」
あれから旦那のそばにずっと付いて離れない俺に向かって奥様が言い放つ。
「旦那が目を覚ますまで居る」
「帰りなさい」
「いやだ」
「医者だって手を尽くしたのよ。貴方にやれる事はないわ」
「それでも側にいる」
こうなったのは俺の責任だから。
俺が考えもなしに行動して敵国の舞を舞ってしまったから。
だから旦那は俺の尻拭いをするために戦地に赴いた。
「勝手にしなさい」
ひとつ大きなため息を吐いて奥様は居なくなった。
旦那の部屋に旦那と俺、ふたり。
そっとその色を失った頬に触れてみる。
「旦那。旦那…なぜ目を開けない」
どうしてこんな事に。
俺のせいだ。
「起きてください。お願いだから」
その手に腕に胸にそっと触れる。
腕にも脚にも大きな傷があった。
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな事になって。
俺が考えなしだったから。
何だってするから。
お願いだから目を開けて。
そしてまた罵倒してもいいから。
もう会えなくてもいいから。
お願いだから、また目を開けて笑ってよ。
まだ生きようともがいているその胸に懇願するように顔を埋めた。
「旦那…旦那…帰って来て。頼むから」
🍁(伝えたい)