2人でいる時に相手の知り合いに出会った時のあの薄ら寒い時間が嫌いだから
だから、一人でいたい
私もあなたになりたかった。
濡羽色の髪、黒のビー玉の目、消えそうに透き通る肌、桜の落ちた頬、自信の積もる表情、白い陶器で作られたような腕、柔い手のひら、雨のように伸びた背中、一滴で広がる水面の様な声、晴天の陽射しのような清らかな所作etc...
私には無い美しいもの達、
私には手に入らない美しいもの達。
そんな貴方の隣に居る劣等感と、
少しの優越感。
「最悪。」
天気は雨。
今日は朝から散々で、本来起きる時間から2時間も前に目が覚めて、それから10分おきに目が覚めて、結局寝た気はしなかった。寝起きから頭がズンと重くて鈍い痛みが鼓動を打つ。胃が受け付けなくて朝ごはんは抜き、2日前から始まった女の業のせいでお腹も痛い。カッパ着てチャリ漕いで家を出たはいいがだんだんシャレにならないくらい体調が悪くなってきて、チャリを降りてコンビニに逃げ込み、今に至る。
イートインスペースに雪崩込むように座り、突っ伏す。
こういう日に限っていつも途中で合流する奴らは早く家を出たらしい。もー最悪。もー嫌だ。今日はもう帰りたい、帰って寝てたい。朝からなんかダメだな今日は。
最悪。
何度も口にする。
これが最悪であれと、これ以上悪くなってくれるなと願いを込めて。最悪、と思う。突っ伏して視界が暗転すると気が緩んだのか眠気が襲ってくる。こんなとこで、最悪だ、最悪だなぁ。と思いながら私は意識を手放したのだった。
時計の針が下を向く。
空はすっかり黒に染まり、その黒が音を吸収して街は静けさで満ちていた。
誰もいない道、私の足音だけが響いていたのに、
ひとつ、ふたつと、増えていく。
「今日はどんなやつ〜?」
「結構デカめっぽいから、県立の広場か街の裏山の麓位まで誘導してから……って思ってるんだけど、」
「え〜、そんなんせせこましいじゃん。」
「そんなこと言って、前吹っ飛ばされて戸建て潰した奴だーれだ。」
「でもあん時誰も居なかったんだしいーじゃん。」
さっきまであんなに静かだったのに……
気付いたらいつもの調子でおどける聞き慣れた声で溢れる。
「……元気そうね、こりゃ今日の働きに期待しなきゃ。」
「お、任せてよ。お嬢に期待なんかされたら頑張っちゃうし。」
「馬鹿、皮肉だよ。調子がいいんだからほんと……」
「あ。」
誰かの何かに気付いた声。
その声の向く方向へ顔を向けると、
今日の夜の散歩の目的。
空の黒さに負けない、全ての光を吸い込むような大きな闇。
獣の体を無理やり人型に落とし込んだような不穏で、醜悪な、嫌悪感を覚える形。
その大きな体を縮めて誰かの家の窓を覗いている。
「ほら、早く終わらせて帰ろう。明日も学校なんだし。」
「さー!ひと暴れとしますかぁ!!」
「いい?ちゃんと広いとこまで誘導すんだよ?」
空が音を食む夜は私の、私たちの、
誰にも言えない秘密の時間。