おこめ

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時計の針が下を向く。
空はすっかり黒に染まり、その黒が音を吸収して街は静けさで満ちていた。
誰もいない道、私の足音だけが響いていたのに、
ひとつ、ふたつと、増えていく。

「今日はどんなやつ〜?」
「結構デカめっぽいから、県立の広場か街の裏山の麓位まで誘導してから……って思ってるんだけど、」
「え〜、そんなんせせこましいじゃん。」
「そんなこと言って、前吹っ飛ばされて戸建て潰した奴だーれだ。」
「でもあん時誰も居なかったんだしいーじゃん。」

さっきまであんなに静かだったのに……
気付いたらいつもの調子でおどける聞き慣れた声で溢れる。

「……元気そうね、こりゃ今日の働きに期待しなきゃ。」
「お、任せてよ。お嬢に期待なんかされたら頑張っちゃうし。」
「馬鹿、皮肉だよ。調子がいいんだからほんと……」


「あ。」


誰かの何かに気付いた声。
その声の向く方向へ顔を向けると、

今日の夜の散歩の目的。
空の黒さに負けない、全ての光を吸い込むような大きな闇。
獣の体を無理やり人型に落とし込んだような不穏で、醜悪な、嫌悪感を覚える形。
その大きな体を縮めて誰かの家の窓を覗いている。

「ほら、早く終わらせて帰ろう。明日も学校なんだし。」
「さー!ひと暴れとしますかぁ!!」
「いい?ちゃんと広いとこまで誘導すんだよ?」


空が音を食む夜は私の、私たちの、
誰にも言えない秘密の時間。

6/6/2024, 1:01:05 AM