透明
透明感って、なんだよ!と思ってた。「あの女優は透明感がある」とか言うが、透明になったら透明人間だろう!と思ってた。大学で彼女に会うまでは。
その日オレは、中庭でベンチに座って寝不足の頭を振っていた。すると彼女が現れた。ふわりとどこからか現れて、だいぶ離れた向かい側のベンチに座った。
そうなんだよ、どこから来たのか分からなったぐらい、いつの間にかベンチに座ってた。なんだかオーラが見えるようだった。彼女だけ、他の人と違う輝きがあった。
「こ、これが透明感か!」全体的な爽やかさとか清潔感、肌がキラキラしてて、オレはひと目で恋に落ちた。
だが、それっきり彼女に会うことは無かった。毎日、会うのを期待して同じベンチに座り続けていたのに、あれからの残りの大学生活2年間一度もだ。
やっぱり彼女の透明感は、ただの透明に変わっちまったのかなぁ?
No.136
終わり、また始まる、
家事ってね、賽の河原なのよ。賽の河原って、知ってる?『冥土の三途の川の河原で、死んだ子どもが父母供養のため石を積んで塔を作ると、鬼がそれをこわすが、地蔵菩薩に救われてまた石を積む』つまりは、石を積んでは壊されて、また積んでは壊されての繰り返しってこと。
食事を作っては食べて、汚れた食器を洗ったら、また次の食事を作って食べて汚れる。
服を洗濯したら、また汚れた服が出てくる。
掃除をしては、また汚れて、掃除して汚れて・・・!他にもたーくさんのいろいろな仕事があるのよ。
やらない人には分からないでしょうね。ねぇ、貴方。
貴方は定年退職して毎日が日曜日とゴロゴロしてるけど、主婦には定年退職無いんですか?
今日の家事は終わり、かと思うと、また始まる、この繰り返しの虚しさ、貴方には分かる?
No.135
星
タカヒロと夜道を歩くのは初めてかも知れない。いつも、車で行っちゃうから。
今日は仕事の帰りに、たまたま駅で会ったから、こうして同じ方向に歩き出した。
「わぁ意外に星がたくさん見えるね」照れ隠しに空を見たら、星が瞬いている。
タカヒロが、同じく空を見上げながら言う。「なぁ薫、オレさぁ、そろそろ身を固めたいんだ。この先、オレとずっと居てくれる気はあるか?」
まるで、あっちにいくつ、こっちにも見えるねと、星を数えるような、期待と静けさを含んだ
口調だった。
「待ってました!私もずっとタカヒロと一緒に居たい!」
少しおどけて、腕にしがみつく。
とってもいい夜だ。星もたくさん見えたし。
No.134
願いが1つ叶うならば
願いが1つ叶うならば、何がいいだろう。
だいたい、おとぎ話の中では、願い事の選択を間違って、というよりも相手のミスディレクションで選択しそこなって、たいてい悲劇に終わる。
お金がたくさん欲しいと言えば、小銭だけジャラジャラ出てきて、願った本人が埋もれるとか、人の上に立ちたいと言えば、高い塔のてっぺんに取り残されたりする。病気を完治させたいと言ったら、どういう事態になるのだろう?
いずれにしても面倒なことになりそうで、叶えたい願いなどなくなってしまう。
地道に優しく生きていれば、きっと良いことあるよ!
No.133
嗚呼
「嗚呼!」私は天を仰いだ。またか、また失敗だった。このタイムカプセルが私のライフワークなのだが、もう、私も年だ。あまり時間がない。
タイムマシンに乗るよりも、もう少し凝縮した空間(カプセル)に一人ずつ乗ったほうが、時間や場所を正確に合わせやすい、というのが私の議論だ。
簡単な箱みたいなタイムマシンは、既に開発されているが、失敗も多い。目的の時間や場所とまったく違う場所に行ってしまったらしく、それっきり帰って来ない家族とか、未来に行くと言って出発した途端に爆発事故を起こしてしまったり。むしろ、成功した話はあまり聞かない。行った人が秘密にしている可能性もあるけどね、
それでも人は、過去や未来に行きたいらしい。そういった事故をニュースで見ても、懲りずに行こうとする。
だから私は、もっと安価で、正確性のあるタイムカプセルを開発しようとしている。
もう何万回実験したろう?いまこの国の平均余命は178歳だ。182歳になった私の、研究出来る時間は、あとどのくらいだろう?
改修のために1日置いて、またスイッチを入れたものもダメだった。「嗚呼!!!」
No.132