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4/8/2026, 11:57:32 AM

それでも、これからも、ずっと

 森の奥に、小さな白い狐が住んでいた。

 名前はユキ。冬の初め、まだ雪の降らない朝に生まれたのに、毛並みだけは真っ白で、まるで先に冬を知っているような子だった。

 ユキには、大切な友だちがいた。森のいちばん古い湖に住む、黒い羽のカラス、クロだ。

 クロはよく喋るわけでも、優しい言葉をかけるわけでもなかった。ただ、ユキが湖のほとりに座ると、いつも同じ枝に止まり、静かにそこにいた。

「ねえクロ、もしも冬が終わらなかったらどうする?」

 ある日、ユキがそう聞いたとき、クロは少し首をかしげて、言った。

「終わらないものなんてない」

「でも、ずっと続いたらいいのにって思うものはあるでしょう?」

 クロはすぐには答えなかった。風が湖の水面を揺らし、空の色が少しずつ変わっていく。

「……あるな」

 その短い言葉だけで、ユキは十分だった。

 春が来て、森は柔らかい緑に包まれた。夏には湖の水が光を跳ね返し、秋には木々が燃えるように色づいた。

 ユキはそのすべてをクロと一緒に見た。

 けれど、ある年の冬の終わり、クロは枝に止まったまま、羽を動かさなくなった。

 雪が降っていた。

 ユキは何度も呼びかけた。

「クロ、ねえ、春が来るよ。起きて。ほら、もうすぐ終わるよ」

 けれど、クロは答えなかった。

 ユキはその日、初めて知った。

 終わらないものなんて、ないのだと。

 それでも――。

 春は来た。

 湖はまた光を取り戻し、森には新しい命が芽吹いた。

 ユキは一人で湖に通い続けた。あの枝の下に座り、同じように空を見上げる。

 誰もいないのに、そこにいる気がした。

「ねえクロ、今日はね、風が少しあたたかいよ」

 そう話しかけると、風がそっと頬をなでた。

 ある日、黒い羽が一枚、枝から落ちてきた。

 それは古く、もう軽くなっていて、風に乗ってユキの足元に届いた。

 ユキはそれをくわえ、静かに目を閉じた。

 そして、ようやくわかったのだ。

 終わることと、消えることは違うのだと。

 クロはもうここにはいない。けれど、ユキの中に、確かにいる。

 あの言葉も、あの沈黙も、あの時間も。

 ぜんぶ。

 だからユキは、また空を見上げた。

「これからも、ずっと」

 その言葉は誰かに届くわけでもなく、ただ風に溶けていく。

 けれど確かに、世界のどこかで響いていた。

 白い狐は今日も湖のほとりに座り、季節を見送る。

 春も、夏も、秋も、冬も。

 終わりながら、続いていくものの中で。

 それでも、これからも、ずっと。