一年後のことなんて分からないと
その男は言った
明日のことも定かではないのに
そんな無責任なことをお前に言えない
嘘を言えばよかったのに
無責任でいい
適当なことを言えば
それでよかったのに
馬鹿正直な男だった
そんな男を愛した自分も
じゅうぶん馬鹿だと思った
その男はもうこの世にいない
遠い昔の話だ
明日世界がなくなるとしたら
いつも通りの静かな生活が
送れますように
本当は毎日、
明日の可能性など
誰にも分からないのだけど
見ない振りをしている
いずれにせよ私は
静かな生活ができればいいな
君と出逢ってから私は
100年ぶりに小説を書くことにした
初めは文字を思い出す事でさえ
困難な状況だった
文章の頭と末尾の意味が食い違って
視点はぐちゃぐちゃで
起承転結はなってなくて
本当に酷い出来上がりだった
あれから1年が経ち
私は30の小説を書いた
全部主人公は君だ
これからもまだ書いていくと思う
書く度にこれで最後と思いながら
筆を置いて2、3日するとまた
書きたい気持ちが湧き上がってくる
君のことがまだ分からないから
それを解明するために今日も書く
君を手に入れるために書く
いつか私が書くのを止めたなら
それはこの恋が成就したということなのかもしれない
まずはライオンの姿が見える
堂々とした体躯
たてがみが踊るよう
次は首が長くなって
たてがみが翼になる
ペガサス?
今にも駆け出しそうだ
やがて足が痩せて行き消え去り
長い胴体だけになる
あれは龍の姿
くねりながら天を駆ける
ちぎれちぎれて雲は最後に
哀しい人の顔になった
ポッカリと開いた目と口と
何かを訴えながら
空の彼方へ流れていった
一番初めに覚える言葉
パパ ママ
あっとう
小さな頭をちょこんと下げて
嬉しいおもちゃをもらった時
美味しいお菓子をもらった時
優しくしてもらった時
頭を撫でてもらった時。
こう言うんだよと教えてもらって
意味はよく分かっていないかもだけど
あっとう
と言う
パパ ママ わんわん にゃあにゃあ
そして「あっとう」
やがて言葉と意味がピッタリ合って
自然にあなたの口から
出てくるようになるんだね
「ありがとう」