「本物を求める者へ」
焦らず、騒がず、逃げ出さず
この道を歩くと決めたのなら
振り返るな、疑うな
掴むまでは、まだ途中
夢を語るだけなら簡単だ
だが言葉は軽く、風に消える
本物が欲しいのなら
己の手で、それを形にしろ
苦しみが待っていると知っても
求めることを諦めない者だけが
偽りの闇を切り裂いて
光の中へと辿り着く
嘘にはしない
すべてを本物にするために
今日もまた、一歩を踏み出す
——そして、お前は進み続ける。
何もできない、と呟いて
ただ座り込んで 空を見上げる
手を伸ばすこともなく
歩き出すこともなく
けれど 何もしなければ
できるものも 生まれない
昨日と同じ 風の中で
明日さえも 霞んでいく
小さくてもいい
ひとつ踏み出せば
世界は少し 動き出す
その一歩が 何かを変える
流れゆくもの
川はただ 静かに進む
光を映し 風にたゆたう
動きを止めれば 淀みはじめ
やがて その身を腐らせる
人もまた 歩みを止めれば
心は重く 鈍くなる
昨日のままでいようとして
明日の風を忘れてしまう
けれど 急ぐばかりではない
流れのままに 時を知る
滞らず 焦らずに
生きることこそ 澄みわたる秘訣
赤い糸の魔女 〜過去と今と未来を繋ぐ者〜
冬の夜空に星が瞬く。
僕はひとり、公園のベンチに座っていた。
今日でちょうど二年。僕が新しい道を選んだあの日から、時は流れた。
「今日、何の日だか覚えてる?」
ふいに声がした。
驚いて顔を上げると、そこには**“過去の僕”**が立っていた。
あの頃の僕は、幼く、迷いを抱えたまま。
そしてその傍らには、一人の女が立っていた。
長い漆黒の髪をなびかせ、闇夜に溶け込むような黒いローブを纏っている。
細い指先に揺れる銀の杖。
彼女は僕を見つめ、微笑んだ。
「私は、赤い糸の魔女。あなたの過去と、今と、未来を繋ぐ者よ。」
彼女の言葉に、胸がざわめく。
「なぜここに?」
魔女は静かに微笑んだ。
「あなたの中で、まだ答えが出ていないから。」
「過去のあなたがここにいるのも、そのためよ。」
「お前は、本当に今の自分でいいの?」
過去の僕が、真っ直ぐに問いかける。
「……どういう意味だ?」
「君がこれまで築いてきたもの、本当にそれでいいのかって聞いてるんだ。」
「僕は……変わることを選んだ。でも、時々怖くなるんだよ。」
「怖い?」
「変わってしまえば、過去の僕が間違いだったみたいに思えるから。」
「だけど、それじゃあ過去の僕は報われない。あの頃の僕も、必死に生きてたんだ。」
魔女は銀の杖を振るった。
すると、僕の足元に一本の赤い糸が現れた。
それは、過去の僕と今の僕を繋いでいる。
そして、その糸はさらに遠くへ伸びているようだった。
「未来のあなたにも、繋がっているのよ。」
魔女の言葉に、僕はハッとする。
足元を辿るように視線を送ると、闇の向こうに**“未来の僕”**が佇んでいた。
未来の僕は、どこか穏やかで、堂々としていた。
まるで、全てを受け入れたかのように。
「……僕は、未来の僕に繋がれるのか?」
魔女は微笑む。
「あなたが信じるなら。」
過去を振り返ることも、未来を思うことも、すべて今の僕にかかっている。
過去の僕は間違いじゃない。
でも、未来の僕に進むためには、今の僕が選ばなければならない。
「赤い糸はね、愛する者同士を繋ぐものだけではないの。」
「あなたがあなた自身を信じる限り、赤い糸は解けないわ。」
「答えは出た?」
過去の僕が、静かに問いかける。
僕は深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。
「……僕は、進むよ。」
魔女は満足そうに微笑み、そっと杖を振る。
すると、未来の僕へと続く赤い糸が、ゆっくりと輝き始めた。
「もう迷わない?」
「もう迷わない。」
過去を抱きしめ、未来へと歩む。
それが、僕の選んだ道だった。
魔女は最後に一言だけ残した。
「あなたが再び迷ったとき、また会いましょう。」
そして、赤い糸の魔女は夜の闇に消えた。
僕は前を向いて、ゆっくりと歩き出す。
未来の僕へと続く赤い糸を、しっかりと握りしめながら。
僕の物語は、まだ続いていく。
ゆっくりと、自分自身の手で紡ぎながら。
「不器用な旅路」
誰かのように器用には生きられない
流れるままに歩くこともできない
道化の仮面をかぶれば楽だろうか
でも、それじゃあ自分が泣いてしまう
遠回りでもいい 不完全でもいい
選んだ道が自分を映すなら
それはきっと、間違いじゃない
時には笑われることもあるだろう
「そんなに考えなくてもいいのに」と
でも、心を偽らずに生きることが
どれほど強くて、美しいか
器用じゃなくていい
迷っても、立ち止まってもいい
大事なのは、自分を裏切らないこと
たどり着いた先にある景色は
不器用な旅を続けた者だけが
見ることのできる 唯一の光