流れゆくもの
川はただ 静かに進む
光を映し 風にたゆたう
動きを止めれば 淀みはじめ
やがて その身を腐らせる
人もまた 歩みを止めれば
心は重く 鈍くなる
昨日のままでいようとして
明日の風を忘れてしまう
けれど 急ぐばかりではない
流れのままに 時を知る
滞らず 焦らずに
生きることこそ 澄みわたる秘訣
赤い糸の魔女 〜過去と今と未来を繋ぐ者〜
冬の夜空に星が瞬く。
僕はひとり、公園のベンチに座っていた。
今日でちょうど二年。僕が新しい道を選んだあの日から、時は流れた。
「今日、何の日だか覚えてる?」
ふいに声がした。
驚いて顔を上げると、そこには**“過去の僕”**が立っていた。
あの頃の僕は、幼く、迷いを抱えたまま。
そしてその傍らには、一人の女が立っていた。
長い漆黒の髪をなびかせ、闇夜に溶け込むような黒いローブを纏っている。
細い指先に揺れる銀の杖。
彼女は僕を見つめ、微笑んだ。
「私は、赤い糸の魔女。あなたの過去と、今と、未来を繋ぐ者よ。」
彼女の言葉に、胸がざわめく。
「なぜここに?」
魔女は静かに微笑んだ。
「あなたの中で、まだ答えが出ていないから。」
「過去のあなたがここにいるのも、そのためよ。」
「お前は、本当に今の自分でいいの?」
過去の僕が、真っ直ぐに問いかける。
「……どういう意味だ?」
「君がこれまで築いてきたもの、本当にそれでいいのかって聞いてるんだ。」
「僕は……変わることを選んだ。でも、時々怖くなるんだよ。」
「怖い?」
「変わってしまえば、過去の僕が間違いだったみたいに思えるから。」
「だけど、それじゃあ過去の僕は報われない。あの頃の僕も、必死に生きてたんだ。」
魔女は銀の杖を振るった。
すると、僕の足元に一本の赤い糸が現れた。
それは、過去の僕と今の僕を繋いでいる。
そして、その糸はさらに遠くへ伸びているようだった。
「未来のあなたにも、繋がっているのよ。」
魔女の言葉に、僕はハッとする。
足元を辿るように視線を送ると、闇の向こうに**“未来の僕”**が佇んでいた。
未来の僕は、どこか穏やかで、堂々としていた。
まるで、全てを受け入れたかのように。
「……僕は、未来の僕に繋がれるのか?」
魔女は微笑む。
「あなたが信じるなら。」
過去を振り返ることも、未来を思うことも、すべて今の僕にかかっている。
過去の僕は間違いじゃない。
でも、未来の僕に進むためには、今の僕が選ばなければならない。
「赤い糸はね、愛する者同士を繋ぐものだけではないの。」
「あなたがあなた自身を信じる限り、赤い糸は解けないわ。」
「答えは出た?」
過去の僕が、静かに問いかける。
僕は深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。
「……僕は、進むよ。」
魔女は満足そうに微笑み、そっと杖を振る。
すると、未来の僕へと続く赤い糸が、ゆっくりと輝き始めた。
「もう迷わない?」
「もう迷わない。」
過去を抱きしめ、未来へと歩む。
それが、僕の選んだ道だった。
魔女は最後に一言だけ残した。
「あなたが再び迷ったとき、また会いましょう。」
そして、赤い糸の魔女は夜の闇に消えた。
僕は前を向いて、ゆっくりと歩き出す。
未来の僕へと続く赤い糸を、しっかりと握りしめながら。
僕の物語は、まだ続いていく。
ゆっくりと、自分自身の手で紡ぎながら。
「不器用な旅路」
誰かのように器用には生きられない
流れるままに歩くこともできない
道化の仮面をかぶれば楽だろうか
でも、それじゃあ自分が泣いてしまう
遠回りでもいい 不完全でもいい
選んだ道が自分を映すなら
それはきっと、間違いじゃない
時には笑われることもあるだろう
「そんなに考えなくてもいいのに」と
でも、心を偽らずに生きることが
どれほど強くて、美しいか
器用じゃなくていい
迷っても、立ち止まってもいい
大事なのは、自分を裏切らないこと
たどり着いた先にある景色は
不器用な旅を続けた者だけが
見ることのできる 唯一の光
「瞳を閉じて、君を描く」
アキトはその日も目覚めと同時に、隣の空っぽのベッドを見つめた。そこには、かつての温もりが残っているかのような気がした。けれど、実際にはただの冷たいシーツが広がっているだけだった。
「サエ、君は今、どこにいるんだろう。」
呟いた声は誰にも届かない。隣にいたはずのサエが突然いなくなってから、何もかもが変わってしまった。朝日がカーテン越しに差し込むたび、アキトはその光に追いかけられるように毎日を過ごしていた。
アキトとサエが出会ったのは、春の始まりだった。桜が満開の公園で、彼女がふと振り返った瞬間に目が合った。その後、二人は偶然を装った必然のように近づき、いつの間にか日々を共有するようになった。
星空の下で一緒に願いをかけた夜もあった。
「このままずっと、こうしていられたらいいね。」
サエのその言葉に、アキトはただ頷いた。けれど、その時間はあまりにも短く儚かった。
サエは何も告げずに姿を消した。
最初は怒りや困惑ばかりが胸を埋め尽くした。それでも、時が経つにつれ、アキトはサエが残してくれたものに気づき始めた。彼女がいた日々の中で、彼は自分がどれだけ救われていたか、どれだけ強くなれたかを思い出すようになった。
夜、星空を見上げると、サエの笑顔が浮かぶようだった。
「瞳を閉じて、君を描く。それだけで、また歩ける気がする。」
アキトはそう自分に言い聞かせながら、一歩ずつ未来へ向かって進む決心をした。
季節は巡り、やがて秋が訪れた。サエがいなくなってから、初めて訪れる彼女との思い出の公園。木々は黄金色に染まり、風に葉が舞っていた。その景色の中で、アキトはふと空を見上げ、心の中で呟いた。
「サエ、ありがとう。君がくれたものを胸に、僕はこれからも進むよ。」
瞳を閉じると、彼女の笑顔がはっきりと浮かんだ。そしてその笑顔は、彼をこれからの未来へと優しく導いてくれる光になった。
アキトは静かに目を開け、深呼吸をして歩き出した。足取りはまだ少し重かったが、心の中には確かに、彼女が残した温もりと強さが息づいていた。
「てのひらの宇宙」
小さな手のひらに広がる星空
無数の記憶が瞬きながら
消えては生まれ、巡り続ける
過去も未来も、ここにある
涙ひとつが落ちるたび
新たな銀河が生まれていく
砕けた星の欠片さえ
希望の光へと変わる
恐れや後悔、胸の影も
その宇宙の一部として輝く
悲しみが創る道しるべを
誰もがそっと見つめている
てのひらの宇宙に映るのは
私の心、私の世界
無限に広がるこの小さな空を
私は今日も、抱きしめる