そっとドアを開けてみると
電気を消してスマホを点けて
バックライトに照らされながら
ベッドの中で動画を見る息子の
シルエットが見えた深夜

寝たふりしたってわかるからね
声を潜めてるつもりでも
笑ってるの聞こえるからね


そっとドアを開けられて
電気を消してテレビを点けて
ブラウン管に照らされながら
布団の中で番組を見る私の
シルエットを見られた過去

寝たふりしたってわかるのはね
昔の自分もそうだったから
声を潜めてたはずなのに
笑ってるのを聞かれてたから

「逆光」

なぜだか武道館に立ち
思い入れのないギターで
弾いたことのないコードを
愛しくかき鳴らしていた
聴いたことのない歌を
叫ぶように熱唱した

歌い終わった僕は
観客の歓声を浴びて
顔を見上げて目を閉じて
身に覚えのない歌手街道を
ひとつひとつ振り返っていた

目を開けるとパジャマ姿で
いつもの部屋にいた
付けっぱなしのイヤホンから
憧れの人が歌っていた

夢の中でちょっとだけ
夢は叶えられた
どんな風に弾いていたっけ
思い出まみれのギターで
おぼろげな記憶を頼りに
おぼつかない手で爪弾いた

「こんな夢を見た」

夢の中でだけ
あの頃に帰れる
目が覚めたら
ほとんど忘れる

本当は夢の中にだけは
タイムマシーンがあって
忘れているのではなく
タイムマシーンに乗った記憶を
消されているのかもしれない
今と向き合えるように

「タイムマシーン」

流れ星を見たのは
日記を書いた後だった
あまりに平凡な一日で
夕方に今日を終えていた

日記を書き直させたのは
あの一瞬の光だった
帰るまでが遠足だって
子供の時に教わって
眠るまでが今日だって
大人になって気がついた

「特別な夜」

いつの間にかお弁当が
底上げされていた
海はすごいなあ
どんなに不景気でも
底上げしないんだから

「海の底」