『時計の針』
幸せだ。
好きな物に囲まれて暮らすのは。
森の中で動物に囲まれて暮らすのが夢で、
引っ越しててその夢が叶ったんだけど。
悲しい。
時間が経てば懐いてくれた子もみんな死んでしまう。
このまま、このまま時が止まれば良いのに。
その思いを込めて、ログハウスにある時計のうちの
一つをまだ動かしていない。
いや、正確には、止めた。
此処に居れば、時間が止まっているように感じて。
それからこの時計の針はずっと止まったままだ。
『溢れる気持ち』
「くーちゃんは可愛いねぇ~」
何でこんなに可愛いんだ…。
もっふもっふの毛並み。
長めの尻尾。
ちぃちゃいおてて。
キュートなお顔。
「あ゙~その歩き方最高。マジで可愛い」
その全てが最高だよ。
「クオン~おいで~」
とてとてしてる~。
「クオンはおいもコーンと
エン麦クッキーどっちが好きなの?」
さぁ、どっちに行くか…。
お、おいもコーン取った。
…あれ?エン麦クッキーも持ったな。
…おいもコーン食べてるけど
エン麦クッキーももってるな。
どっちもって事か?
「欲張りさん」
こんなにもうちに住んでるチンチラが可愛い。
「ほんとに可愛い。クオン、
僕の携帯の写真、君でいっぱいだよ」
『Kiss』
「ねぇ、さよならする前にキスして欲しいな」
「…しないよ」
出来るだけ、目を合わせないように。
自分のことを嫌いになって貰えるように。
忘れて、貰えるように。
「…そっか」
「じゃあね」
「………うん、じゃあね」
もっと言いたいことがありそうな君のことを無視して
俺は先に歩き出した。
引き留めようとして辞めてくれた君に
俺は感謝してしまった。
今この顔を見せるわけにはいかないから。
「はは、結局、諦め切れて無いじゃないか…」
「ちゅっ」
「はっ?」
いま、なにを
「ねぇ、私と逃げない?何処かにさ」
「な、にいって」
「ん~と、何だっけな…?あ、駆け落ち?ってやつ!」
正直馬鹿だと思った。
でも、まだ彼女と一緒に居たかった俺としては嬉しかった。
「駆け落ち、するにしても見つかったら…」
「その時はその時でさ!」
…この無計画さはどうにかして欲しいが。
今はそれに助けられた。その、気軽げさに。
「君が良いなら、良いよ。」
「よっし!じゃあ行こう!」
「うん」
「あ、待って」
「何?忘れ物でもしたの?」
「ちゅ、俺の事を連れ出してくれてありがとう」
「ふは、うん!これからもよろしくね」
「もちろん」
連れ出してくれた君に感謝と愛情を。
『1000年先も』
小学生高学年くらいに君に対する考えが他の友だちと違うことに気が付いた。
中学の時、僕は勇気が無くてそれを
秘密にし続けていたら君の方から告白してくれて。
今、君は臆病な僕と一緒にいてくれている。
それだけで僕は幸せなのに、君は
「1000年先も、生まれ変わったとしても
私は君のことが大好きだと思う!」
なんて言ってくれるから。
また、君と出会えたことに思わず感謝してしまった。
『勿忘草』
「あ!みて、わすれなぐさ!」
「勿忘草?ってなに?」
「わすれなぐさってゆうのはね…はるをしらせるはなって
ゆわれてて、はなのいろはみっつあるんだよ!」
「色が三種類の春を知らせる花…」
「うん!」
…そう言った君は今どこに居るのかな。
いつもの通り道に咲く花を見つけては一つ一つ丁寧に説明してくれた。
君が引っ越してしまったのは何時だっけ。
いずれにせよもう大分前のことだ。
君は私のことなんてとうに忘れてしまって居るだろうね。
ふと庭を見れば庭の外に白色の勿忘草が咲いていた。