『Kiss』
「ねぇ、さよならする前にキスして欲しいな」
「…しないよ」
出来るだけ、目を合わせないように。
自分のことを嫌いになって貰えるように。
忘れて、貰えるように。
「…そっか」
「じゃあね」
「………うん、じゃあね」
もっと言いたいことがありそうな君のことを無視して
俺は先に歩き出した。
引き留めようとして辞めてくれた君に
俺は感謝してしまった。
今この顔を見せるわけにはいかないから。
「はは、結局、諦め切れて無いじゃないか…」
「ちゅっ」
「はっ?」
いま、なにを
「ねぇ、私と逃げない?何処かにさ」
「な、にいって」
「ん~と、何だっけな…?あ、駆け落ち?ってやつ!」
正直馬鹿だと思った。
でも、まだ彼女と一緒に居たかった俺としては嬉しかった。
「駆け落ち、するにしても見つかったら…」
「その時はその時でさ!」
…この無計画さはどうにかして欲しいが。
今はそれに助けられた。その、気軽げさに。
「君が良いなら、良いよ。」
「よっし!じゃあ行こう!」
「うん」
「あ、待って」
「何?忘れ物でもしたの?」
「ちゅ、俺の事を連れ出してくれてありがとう」
「ふは、うん!これからもよろしくね」
「もちろん」
連れ出してくれた君に感謝と愛情を。
2/4/2023, 1:29:39 PM