《旅路の果てに》
日本の学校では「禁止」の二文字で縛られていた、メイクも、ネイルも、スカートの丈も。
けれど、ここでは誰も私を止めない。
「え、これも自由なの?」という最初の驚きは、すぐに弾けるような「ラッキー!」に変わった。
お気に入りのアクセサリーを揺らし、ネイルを褒められ、自分を彩るたびに、心までアップデートされていく。
でも、そんな自由と引き換えに待っていたのは、「全部英語の台本」という高い壁だった。
完璧主義を捨てて、手に入れたもの
「話せなくて、嫌だ!」
ひとりの部屋で泣いた夜もある。もっちりしていないパサパサのピザを喉に流し込みながら、お母さんの煮物を思い出しては鼻の奥がツンとした。ピザは好きだけど、毎日これじゃ修行すぎる。茶色い煮物が、世界一の高級料理に見えた。
けれど、ある日、私は開き直った。
「日本人なんだから、英語ができなくて当たり前じゃん」
そう思えた瞬間、殻が破れた。
仲間に発音を聞き、意味を教わり、必死に食らいついた稽古。
本番の舞台で、私は誰よりも堂々と、パワフルに自分を解き放った。
「前より明るくなったね!」
友達のその言葉は、どんなトロフィーよりも輝いて見えた。
安いガムと、温かい煮物
授業のあと、学校近くのお菓子屋で買った安いガム。
そのチープな甘さを噛み締めながら、羊や鳥が歩く豊かな自然を眺めた。
あの時のガムは、不安を乗り越えたあとの「勝利の味」がした。
今の私が笑っていられるのは、間違いなくあの日、自分で時間割を決め、自分でルールを塗り替えた私のおかげ。
日本に帰り、久しぶりに口にしたお母さんの煮物。
それは、驚くほど暖かくて、優しい味がした。
あの時の重たいキャリーケースに詰まっていたのは、不安じゃない。
「どこでだって、私は私になれる」という、一生ものの自信だったんだ。
<あなたに届けたい>
机の上には
ぐちゃぐちゃになった便箋
伝えたいことなんて
書き出せばキリがなくて
直接は送らない。
心では繋がってる、なんて
都合のいい勘違いをしていないと
もう、立っていられないだけ。
何も届かなくてもいい。
むしろ届かないほうが 好都合か。
月日が経てば
貴方も私を忘れるだろう。
貴方が思ってるより
私はずっと弱くて
出会わなければ良かったなんて
思ってしまう自分が一番嫌いだ。
I LOVE…
受験勉強忙しいのはわかってるよ。
頑張ってね…
なんてずっと思えるほどわたしは優しくない
会いたいし、触れたいよ
これってわがまま?
会いたいのに、連絡取りたいのにできないのがもどかしい
通知の来ないロック画面
あーあ、貴方と同い年なら良かったのに
別れてないのに
別れた感じ
生きてる心地しない
貴方から貰った手紙を抱きしめて
星降る夜に「好きだよ」とこぼした
《泡になりたい》
夜明け前の湖は鏡のように静まり
風も 鳥も 息をひそめる
ひとつ、泡が生まれる
深い水底から、誰かの願いを纏って
きみは微笑む
「綺麗だね」
でも…その声は、どこか震えていた
触れれば壊れるその小さな命に
なぜか、胸が軋んだのは
記憶にないはずの痛みのせいだろうか
ある朝指先が濡れていた
ある夜名前を呼ばれた気がした
気づけば同じ夢を繰り返していた
泡が浮かぶたびに減っていくのは
水でも時間でもなく
──数えきれない「誰か」の痕跡
それでも泡は今日も生まれる
何も語らずただ儚く…消えてゆく
──泡になりたい
そう願ったのは…ほんとうは
君じゃなかったのかもしれない。
《ただいま、夏》
夏になると
死んだはずの君が
僕の前を、ふいに通りすぎる
下半身は透けて影も落とさない
それでも確かに君はそこにいた
最初は戸惑いながらも
風鈴にまぎれた声に耳を澄ませ
夕焼けに染まる君の笑みを見た
どんな姿になっても
もう一度君と話せることが
ただ、うれしくてたまらなかった
冷めた麦茶
空のままの椅子
蝉の声が忘れられぬ日々を照らし続ける
「やりたいことまだ終わってないんだ」
そう言って
君は照れくさそうに笑った
戻れないことは知っているけれど
僕は願う
この夏を君と
この旅を君と
終わらせたいと
消えぬ思いを君と重ねたい
たとえそれが
命をかける旅でも
「ありがとう、私と出会ってくれて」
そう言われて
僕は目を逸らした
胸の奥締めつける痛みを
隠すようにそらした視線
ああ、君には叶わないよ
僕はまだ
この世界で儚く生きていくだけ…
君の影は遠く
夏の風に揺れて消えた
それでも僕は君を探し続ける
今度こそ言うんだ
ずっと好きだったって
そしてこれからも
言葉にしなきゃ
胸の奥がざわついて
君に届く気がしないから
あの日の夏が
二度と戻らなくても
僕の想いは消えないまま
本当にこの世界から
彼女が消えてしまったら
そう考えるだけで
生きている心地がしなくなる
今はただ
彼女の残した願いを
そっと紡ぐ日々
それが終われば
彼女も静かに旅立つ
…いいのかな、これで、
最後に恋した人が君でよかった。