そんなことあるはずもないのに
良くできた人形の瞳が
こちらを追って見えるように
あなたの言葉の切先は
いつもこちらを向いている気がする
どれほどの時間を費やせば
それほど鋭く光るものか
あなたが磨き上げた狂気は
うっとりするほど美しい
あなたの目の中を覗けば
恐ろしいほど凪いで見えた
黒い湖面は
静かに煮え立ち
さらにその奥に
燃えたぎる地獄が見えた
本を閉じて
現実に立ち返るように
まぶたを閉じて
その赤を遮る
しかしてその鮮烈な炎は
シャッターを切られたように
網膜に焼き付いて
私の小さな地獄になった
向日葵の花がいつでも太陽を向くように
いつもあなたを目で追っていたのは
『君の目を見つめると』
うるんだ星空から
はらはらと幻のような雪がこぼれて
チューリップ畑は
まるごと砂糖づけのようになって
さむいのか あたたかいのか
つないだ君の手のひら
春のすみっこ
陽光のとどかない空で
孤独な魂たちがにぎやかにもえている
そのうたが聞こえてしまった日から
ずいぶん遠くまで来てしまったね
まだまだ遠くへ行かなくてはいけないよ
太陽が昇れば
あたたかくにじんでしまうような星空を
見失わないように 忘れないように
手のひらの暗がりにしまって
いつまでも追いかけていたい
追いかけて行こう
『星空の下で』
色づいた君のつめさきに
したたりそうな日だまり
スマホに反射した光が細かくゆれて
猫が眠そうな目でそれを追っている
ゆびさきでなにか大切なものを手繰る君
大切なのに
大切にできないのなら
拾ってはいけないのに
酷く傷つけたり
時に壊してしまっても
さみしいよりは
あたたかいのかい?
きっと所有することだけが幸せではないよ
自分の外へ求めても見つからないものがあるよ
本当に大切なものは
いつかどこかへ
置き忘れてしまったような君のこころ
そういうものだと思うのだけれど
『大切なもの』
光のみちた風が吹く
いのこる冬をおいたてるように
古い いくさの神も
剣を農具へもちかえて
四月の嘘は
ユーモアをもって吐かれるべきだ
鉄の匂いはあおく若葉の香
ながいながい悲しみも
花の雨にかわって
閉ざされた門や戸が開き
人々が踊りだす
はじまりの日
生まれかわりのひるまえ
『エイプリルフール』
美しいものを君に
窓ぎわのサボテンの
頭にピンクの花冠をのせて
甘やかに色づく東のそらを
星々が列になって旅をしているよ
薄闇に小さな羽音が灯り
ほどけた水のにおいが喉を潤して
目覚めた春をゆきかう人々の
さよならとはじめましてのあいだに
福音のつぼみがたくさんゆれているよ
どうか
幸せになって
この美しい季節のすべてが
君のものだから
『幸せに』