うるんだ星空から
はらはらと幻のような雪がこぼれて
チューリップ畑は
まるごと砂糖づけのようになって
さむいのか あたたかいのか
つないだ君の手のひら
春のすみっこ
陽光のとどかない空で
孤独な魂たちがにぎやかにもえている
そのうたが聞こえてしまった日から
ずいぶん遠くまで来てしまったね
まだまだ遠くへ行かなくてはいけないよ
太陽が昇れば
あたたかくにじんでしまうような星空を
見失わないように 忘れないように
手のひらの暗がりにしまって
いつまでも追いかけていたい
追いかけて行こう
『星空の下で』
色づいた君のつめさきに
したたりそうな日だまり
スマホに反射した光が細かくゆれて
猫が眠そうな目でそれを追っている
ゆびさきでなにか大切なものを手繰る君
大切なのに
大切にできないのなら
拾ってはいけないのに
酷く傷つけたり
時に壊してしまっても
さみしいよりは
あたたかいのかい?
きっと所有することだけが幸せではないよ
自分の外へ求めても見つからないものがあるよ
本当に大切なものは
いつかどこかへ
置き忘れてしまったような君のこころ
そういうものだと思うのだけれど
『大切なもの』
光のみちた風が吹く
いのこる冬をおいたてるように
古い いくさの神も
剣を農具へもちかえて
四月の嘘は
ユーモアをもって吐かれるべきだ
鉄の匂いはあおく若葉の香
ながいながい悲しみも
花の雨にかわって
閉ざされた門や戸が開き
人々が踊りだす
はじまりの日
生まれかわりのひるまえ
『エイプリルフール』
美しいものを君に
窓ぎわのサボテンの
頭にピンクの花冠をのせて
甘やかに色づく東のそらを
星々が列になって旅をしているよ
薄闇に小さな羽音が灯り
ほどけた水のにおいが喉を潤して
目覚めた春をゆきかう人々の
さよならとはじめましてのあいだに
福音のつぼみがたくさんゆれているよ
どうか
幸せになって
この美しい季節のすべてが
君のものだから
『幸せに』
君が何気ないふりで抱えて歩く
心にぽっかりあいた穴に
風がとおって鳴る音を
僕はときどき
聞いてしまうことがあるんだ
それはやわらかな土笛の音色
夜を纏う梟のうた
銀河をさまよう汽笛
生まれたばかりの雛鳥の喉のふるえが
小さな蝶のはばたきが
身体の内に巣食う暗闇の
がらんどうをふるわせて
僕の心もふるえている
あちらこちらで風がおこり
孤独な心の共鳴が
音楽のように世界をみたしている
何気ないふりで抱えて歩くものを
知らせている
『何気ないふり』