今日の月は黄金色
ぴったり満ちてひたすら明るい
街明かりが夜空を濁すように
細かな星が見えない
古来より月は神秘であったそうだが
照らすものの多い現代では
真夜中に立つ街灯のほうが
よほど健気で詩的に思えた
ミジンコみたいな形に欠けた
少し歪な月ならば
多少は親しみもあっただろうか
完成されたものへの憧憬に目を瞑る
このまま寝てしまおう
いつまで見つめても
見つめても
今夜の月が欠けることはない
『月夜』
私とってはそれは
地下に眠る水脈のようなもので
見えずとも絶えず流れて
雪解けの水が命を育むように
私の心に滋養をはこんでくれている
私の心も氷の結晶のひとつのようなものになって
この水脈からあなたのもとへ流れていますように
『絆』
週間予報の雪だるま
気温グラフの乱高下
春を待ちかねくしゃみをする
たまには
全力疾走
思ったより足が上がらない飼い主と
どこまでもテンションの上がる飼い犬
中途半端に解けだした雪が
バシャバシャ跳ねて
夕日の撹拌された空を汚した
日差しの名残りなど一息で冷えていく
シャーベット状の雪は
凹凸を残した氷に変わる
まったくもって迷惑な
まだまだ冷たい空気が
今日はちょっと気持ち良い
もうすぐ春が来る
『たまには』
両手一杯の花籠に
君の好きな色のリボンを掛けて
袋一杯にお菓子を
甘いのからおつまみまで
ドリンクは何がいい?
とびきり上手くいれてあげるよ
カモミールのミルクティー
アロマのキャンドル
カラフルなバスボム
宝石みたいな石鹸
そうだ君のお気に入りの作家さんの
新刊はもう買ったのかな
大好きな君に大好きなものをたくさん
たくさん抱えて笑って欲しい
あわよくばその中の
一つになれたら嬉しい
『大好きな君に』
なあんかひなまつりって
急速に気分が落下していくのです
私にとっておひなさまって
この季節デパートや施設に飾られているのを
遠巻きに眺めるくらいのもので
実際ひな人形を飾る家庭ってどのくらいあるのかしら
とはいえ我が家にも昔は
祖母が姉の為に買ったひな人形があったそうで
今より白い壁の前に飾られたひな壇と
ちょっとおすましな姉との写真が残っている
しかし役目を終えた後はさして大切にもされず
どういう訳か私が物心ついたころには
湿気で爆発したざんばら髪の
おひなさまの首だけが
納戸に転がっていた
当時通っていた保育所では
保育士さんたちの真心こもった顔はめパネルで
子供たちはみんなおひなさまさまとおだいりさま
綺麗なピンクの装飾が似合う
可愛い女の子たちが眩しくて羨ましかった
ざんばら髪で死んだ魚の目をしたおひなさま
一緒に写っているこれは誰くんだ?
はれの日の思い出に少しの申し訳なさが
この季節の空気を今も苦くしている