正月のあの日から電子音に過敏になった。
アラート音を思わせて、ごく小さな音でも反応してしまう。本番の音はもっとけたたましいのに、過剰なものだ。
不安を煽る音色へ、正しく素直な反応をする我が身は、逆説的に安心感があるかもしれない。
中学校の修学旅行ではデジカメが禁止されていて、その代わり一人につきインスタントカメラが一つ許可されていた。
30枚ぽっちの制限の中、厳選した撮影。後日、現像した写真は、逆光で何を写したかわからない写真が何枚も混じっていた。
人生に一度きりの機会。デジカメだったら起こらなかった失敗。だけどどうして、それもまた味で、思い出になる。
悪夢ではない夢を見たときだけ夢日記をつけている。
最近だと父のバンド仲間の男が祖母(父の母)と結婚するという報告を受ける夢を見た。父には伝えるつもりはないらしい。
現実で見る夢はむなしさを感じて嫌になるが、夜見る夢は好きだ。無秩序で最初から最後まで「ない」話なのがいい。現実の父はバンド活動に関わったこともないし祖母は亡くなって久しい。バンド仲間の男はラッパーと聞いて思い浮かべるような風貌をしていた。そんな知り合いはいない。
二度寝の誘惑と面白かった夢の記録。夢うつつでなんとかスマホに残したメモは、時折解読不能になるのが玉に瑕だ。
私だけが使えるタイムマシンがほしい。
ちゃんと世の中のために使うよ。災害があれば予告するし、事故があれば警告する。株とか投資はよくわからないけど、みんなが得するなら協力する。
だから私の黒歴史を消してもいいよね? 嫌な思い出をなかったことにしていいよね?
格別に寒い夜。ほんのわずかな酒を含んで寝ることがあった。
さすれどもさすれども凍える手足が徐々に熱を発するようになり、寝入りが楽になるのだ。
普段は滅多に酒を飲まない。飲むのは珍しく参加した飲み会くらいで、体内に入れた酒より場の空気に酔ってしまう。
酔うためではなく、温まるため、眠るため。
そうやって飲むお酒は、その夜は、なんだか特別で贅沢な気分になるのだった。