誰よりも、ずっと
幼い頃からそばで見てきて知っている。
君のその目が本当で本気だって事を言っている。
夢か現か、僕の妄想がついに被害妄想までこじらせたのかと、そんな事が頭を過ぎる。
ぎろりと睨むその目は返事の催促。
本当にいいの…?
返事にならない、返事の言葉が口から小さく溢れた。
察した君が乱暴に僕を包み込む。もう夢でもいい、この温もりは気付いた時からずっと望んでいた温かさ。
君の隣で僕は誰よりも、ずっと君を見ていた。
僕の隣で君も誰よりも、ずっと僕を見てきた。
だからほんの少しの言葉で仕草で伝わってしまう。
僕も君が好きだ。
これからも、ずっと
私はこれといった趣味とか特技とか履歴書に書けるような、他人に胸をはって言えるようなものはない。
前までなら読書とか映画鑑賞とか、それこそ文字を少し、本当に気持ち程度、ネットの海の一部になるくらい書いてるぐらいは言えたかもしれない。
何かを妄想…創造して、形にしていくのは楽しい。その誰かの創造に触れるのも楽しい。読書も映画も創作も誰かの何かに触れて共感できたり、楽しんだり悲しんだり、感情を揺らしながらその時を過ごすのが好き。これだけは確かに言える事。
それは誰かに何かをどうとする事でもないから、ただ自分の中の自分だけが確立した何か。
趣味も特技もないから何も無い。そんな事なくて自分の好きは自分がわかっていればいい。周りに理解を求めようとはしない。自分は自分だから。
これからもずっと私は、自分だけの、自分らしさで生きていく。
何も無い私ではなく、私らしさで。
沈む夕日
様々な所で都市開発が進み、僕らの居た場所は僕らの記憶の中だけの存在に変わっていく。きっと数年後には僕らの住んでる知らない街に変わるんだろう。
新しい建物に胸を踊ろせる一方で僕らの記憶の中だけに沈んでしまう建物がある事に悲しさを感じる。
とぼとぼと散歩をしてるとふと花がひらひらと落ちてきた。
桜か…
時がどれだけ経とうと季節は順番通りに巡る。変わりゆく建物たちとは違って季節は変わらない。
顔を上げて気付いた、もう夕方なんだと。この季節の夕焼けは少し長く感じる。桜と夕焼けが混じり綺麗な絵葉書のような空間にぼーと立ち尽くす。
ここはいつまでも変わらないな…
変わらない場所もあるし、夕日はいつも同じ顔。変化に順応出来るか不安だったけど、変わらないものもあるんだと思うと少し楽になった。
沈む夕日を眺めながらふとそんな事を考えた。
君の目を見つめると
寒空の下、今日も僕に挑戦する誰かを待つ。
昔の挑戦者はずっと自分自身だった。より技術を高めるため、より高みを目指すため自分に厳しく毎日を過ごしていた。あの頃の自分は自信しかなくて、常に前向きにひたむきに一日の時間だと思うくらい生き急いでいた。
引退した今、僕には何もなくただ何となく日々を過ごしている。昔と違う挑戦者はくる。でも君たちが見つめてる先はいつも過去の僕だった。
いつかだったか、僕を見つめてる真剣に楽しみながら勝負してくれる子が現れた。試合途中君の目を見つめると、過去の僕を見ているようで懐かしいような、どこか腐ってしまった自分が恥ずかしいようなそんな気がした。
君のような子が挑戦してくるといつも僕は何をしているんだろうなと思う。
そろそろ僕も動かないといけないのかもしれない。あの見つめた目が脳裏から離れないのはきっと、僕が動きたがっているとゆうことだろうから。
それでいい
本当にそれでいいの?
不安そうに聞いてくる貴方に頷きながら返事をする。
それでいいよ。
少し不安な表情を浮かべたかと思うと、口を小さく開けてホッと安堵の表情に変わった。
貴方が選んだから心配だったのだろう。貴方の表情に釣られてこちらも少し気持ちがなごむ。
それでいい、なんて自分も周りに言える程対した事のない人間だなと思う。
それがいい、貴方が自分を思って選んでくれた、それだからいいんだ。なんて言葉が口から出てこないあたり自分もまだまだだ。