『平穏な日常』
朝起きて朝日を浴びて時計見て、寝坊したーってめちゃめちゃ焦りながら
布団たたんで、飯食って、歯磨いて、頭梳かして
鞄の中身を確認して、定期やリボンも確認して
いってら~って緩い声を背にバス停まで一目散に走るの
バス停について、よかったまだ着てないって息をついて、
コンクリの隙間から生えた花を可愛いって思うような
ふと仰いだ空が綺麗だなって思うような
小鳥の声に季節を知るような
そんな穏やかな日常を送りたい。
『月夜』
今夜は月夜とは言えないなぁ。ガラス一枚隔てた外でこんこんと雪が降るなか、ほけーっと寝っ転がって外を眺めていた。
そういえば、『今日にさよなら』のお題でも少しだけ、月を話題に出した気がする。
太陽に託された光で、命たちの夜の導となるお月様。
その強さは太陽にはほど遠くて、でも安心させるような穏やかさを持っている。
まだ街路灯もなかった時代には、きっと夜の明かりとして多くの命を照らしていたのだろう。そして今も、多くの星が見えなくなった中で、忙しなく生きるひょろっとした命を眺めているのかもしれない。
『大好きな君に』
大好きな貴方が
貴方たちが
学びたいことを目一杯学べるように
食べたいものを好きなだけ食べられるように
貴方たちの物語で心動かされる人が増えるように
各々の望む幸福を享受して、好きな人たちと楽しく笑い合えるように
私にできることはこれしかないけれど
烏滸がましいことは重々承知しているのだけれども
貴方たちが溢れんばかりの幸せを得ることを
この片隅から祈らせてほしい
『現実逃避』
私が現実から逃げるときは、大抵宇宙の外側のことを考えている。
科学者の方々曰く、宇宙の外側にはまた別の宇宙がある……可能性が高いんだと。
理論物理学の、『マルチバース/多元宇宙論』というらしい。
そこは物理法則が同じかも、生命がいるかも、なーんもわからないところ。そもそもこの宇宙ですらまだ探索完了してないんだから、まぁそりゃそうだろうけど。
細かい説明や理論はそっと置いておくとして、
こういう話は重篤な中二病後遺症患者の素晴らしい餌である。
宇宙の外の別世界では魔法か、それに準ずるような技術や物質があるかもしれない。
こちらの世界で生きるには骨格的に無理がある生物が存在できているかもしれない。
魔術と科学が共存する文明社会のようなご都合が、実在を許されているかもしれない。
その中には一つくらい、推しが幸せに暮らしている世界があるかもしれない。
宇宙の壮大さと摩訶不思議さを考えれば、人ごときが想像できるようなことは全て実在できるような気すらしてくる。
もしかしたらこんな法則の世界があるかも。
ならこういう知的生命体がいてこんな文明が興ったり?
そしたら言語は、食事情は、娯楽文化は?
なんて、延々と妄想を巡らせるときは煩わしいことを忘れられる。
くだらなかろうと痛かろうと現実逃避と謗られようと、これが一番手軽で楽しいのだから仕方がないね。
/練習:イカロス
あいつはいつだってそう。
無遠慮に立ち入ってきたかと思ったら腕を引っ付かんで立たせてくる。
それで背中をバシバシ叩いて、大声で笑って「行くぞー!」って言ってくる。
本当にうるさかった。
あいつはいつだってそう。
私がどれだけ面倒な態度で落ち込んでも、変わらない態度で、賑やかな人の和の中に引き込んでくれる。
ほんとはありがたいと思ってたし、嬉しかった。
あいつはいつだってそう。
彼女……あいつの今の奥さんに会って、恋というものを経験しても、私に対する態度はずっと変わらなかった。
いっそ遠ざけてくれればよかったのに。
あいつには人を惹き付ける力がある。
あいつ本人の意思なんて関係なく、ね。
惹き付けて、焼き付けて、でも殆どは手が届かずに萎びて。
焦げて、忘れられなくさせる。
あいつの光が、一生網膜に残り続ける。
あいつに脳を焼かれた人間がいったい何人いることか。
私もそのうちの一人なんだけどね。
いや、きっと私が一番酷い。あいつに焼かれて焦がれて、でも運命には勝てないただのモブ。端から諦めてるくせに、努力しようともしなかったくせに、一丁前に若い子に妬いてる醜い女。
……すまないね。まぁ私のことはいいんだ。
まるで太陽みたいなやつだったよ、私の幼馴染みは。