とうか

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11/29/2022, 12:28:07 PM

籠城

「窓を──お願い、窓を閉めて──」
赤毛の少女の震えた声が聞こえた途端、誰もが口をつぐんだ。大人のいない図書の塔に、冷たい空気が広がっていく。窓の近くにいた少年少女たちはすぐさまバタンと全ての窓を閉めた。大勢が1階に降りてきて、かがんで身を寄せ合う。
背の高い少年がひとり、赤毛の少女に歩み寄って、低い声で尋ねる。
「冬が、始まるのか?」
少女は小さく頷いた。カーテンの隙間から夕日が零れ、影を伸ばしていく。
さっきまで、本を広げたり片付けたりと賑やかだった雰囲気がガラリと変わったので、最近図書の塔のメンバーになったマーガレットは戸惑っていた。
「ねえアガサ、何が起こるの?冬が始まると何がいけないの?」
「───"あいつ"が、来るのよ」
「"あいつ"って?」
アガサは質問には答えず、緊張した声で言う。
「とにかく、静かに。カフカの指示を待って」
しばらくして、細身で銀髪の少年が、絵本用の小さな棚の上に立った。そして落ち着いた声で話し始める。
「みんな、今年は幾分か早いし、先生もいないけど、落ち着いて、いつも通りに。戸締りは大丈夫だね。まず年長組はランタンの準備をしよう、年少組は先に地下へ」
間もなく、ごうっと木枯らしが来て一斉に電球の灯りが消えた。弱々しいランタンの光がぼうっと揺れていた。
これから、長い長い冬が始まる。



11月29日『冬のはじまり』

11/28/2022, 11:45:57 AM

決別の朝

細い月が光る冷えた夜。
汚染された空気が漂う、廃墟と化したこのビル街で、二つの影が揺らいでいる。一つ目は少女のもの、二つ目はAD1999───人型に近い清掃ロボットのものだ。少女の隣、AD1999はうなだれるように、瓦礫にもたれかかっていた。
少女はうつむき、スイッチを押そうとする。
「待って。終わらせないで」
AD1999は言った。
腕の部分には「機能停止」の文字が点滅している。
「あたしはもう、見ての通り、終わりかもしれないけど、あなたが、あなた自身を終わらせる必要はないわ」
AD1999は少女の崩れかけた手を取る。同時に、少女の腕にあった「機能停止」の文字が消えた。
「あたしたち機械に、『生きる』って言葉は相応しくないかもしれないけど」
そう言って、冷たい金属の手で少女を抱きしめた。
「生きて。大丈夫。あなたが思ってるより、未来は悪くないはずよ」
東の空が白く霞んで、暗い青を光が覆っていった。
新しい、朝が来る。



11月28日 『終わらせないで』

11/27/2022, 1:58:06 PM

眠り姫

見渡す限り、水平線。
僕は君をのせてボートを漕ぐ。
青い空は静かに僕らを包んで、太陽は君の頬を穏やかに照らしている。僕はそれを見つめながら、ゆっくりとオールを動かす。
もうどれくらいこうしているだろうか。いまだ君は目覚めない。いつか必ず起きるから待っていて、と君が言ったのがもうずっと前のことに思える。
「好きだよ。ねえ、僕をひとりにしないでよ」
涙は枯れてしまった。このまま、君を想う気持ち───愛情という概念まで失ってしまうのではないかと、怖くなる。
ふと、冷たい雨が落ちてきた。僕は小さなパラソルを広げると、君に寄せて立てた。
そしてまた、ゆっくりとボートを進ませていく。



11月27日『愛情』