君がワイングラスから手を滑らせた。
スローモーションのように、
それはまっすぐに落下して、
儚く砕け散って、音を響かせて、
広がっていく液体は、君の匂いがして。
それに目を向けた君は、どこか遠くを見ているようで。
こんな風に終わっていくのかなと、考える。
テーマ 落下
あじさいの花は、いくつもが集まって、それでひとつの「あじさい」という感じがするけれど。
それぞれの花が少しずつ違う色で、違う形で咲く。
繋がりあっているようで、
同じように生きているようで。
それでも、ひとつひとつの花だ。
テーマ あじさい
「最悪、教科書忘れちゃった」
私が見せてあげるから。
「最悪、絶対前髪切りすぎた」
そんなことない。可愛いよ。
「最悪、こんなんじゃ彼に嫌われちゃう…」
…私が、そばにいるのに。
「最悪…もう死にたい」
だめだよ。君がいなくなったら、私は。
すっかり君の口癖になっているそれは、私なんかじゃ消えない。消せない。
それでも、私が、君を守るから。
最悪な思いなんて、させないから。
テーマ 最悪
二年前のあの日、私が貴方に出会ったこと。
貴方の影さえも、強く輝いているように見えたこと。
モノクロだった世界が、色づいていったこと。
一年前のあの日、貴方はあの子と手を繋いで、海辺を二人で歩いてた。
その影を、引き裂きたいと思ったこと。
貴方色だった世界が、黒く染まっていったこと。
その日私が、胸にしまっていた言の葉を、
細かく噛みちぎって飲み込んだこと。
恋の味を、知ったこと。
今この瞬間、幸せになってねと、願っていること。
誰にも言えない、私だけの秘密だ。
テーマ 誰にも言えない秘密
狭い部屋で僕は一人、外を眺める。
電灯一つ無いこの部屋を照らすのは、外の光だけだ。
何かしたいけれどすることもないから、
ただ、ずっと外の世界に憧れている。
誰かが訪ねてくるわけでもないのに、
ただ、ずっと誰かを待っている。
外の世界の裏側を知るのは怖くて、
自分から誰かに会いに行くのは恐くて、
閉じこもって。動けなくなって。
それでも、外の世界は、
この部屋を照らし続けるのだった。
テーマ 狭い部屋