『もう二度と』
「もう二度と」なんて言葉は
私は信じないことにしているの。
だって、未来は誰にも分からないもの。
また、キミが約束を破ることもあるかもしれないし。
次は、私の番でもおかしくないわ。
何が起きても不思議じゃないと思うのよ。
不確かな未来の約束よりも、
君と一緒に居たいという、今の私の正直な気持ちを、
私は選ぶことにしたの。
『曇り』
「おはよう」と
見上げた先にあったのは
お空を覆う、灰色の雲。
この雲のむこうは、何があるの?
きっと、広いお空を明るく照らせる
まぶしい太陽が隠れているのよ。
もしも、風が吹いたなら、
雲を飛ばせてくれるかしら。
「おはよう」と
声をかけた先にあったのは、
うつむき加減の、キミの顔。
この曇った表情のむこうには、何があるの?
きっと、周囲の人を照らせるような、
やさしい笑顔が隠れているのよ。
もしも、私が風になれたなら、
キミの雲を飛ばせてしまえるかしら。
『bye bye…』
「なんか、顔みたいに見えない?」
英語の授業の後だった。
たまたま今日、日直になった僕とあの子が
英単語で埋め尽くされた黒板を
粉まみれになりながら消していた時。
あの子が不意にそう言った。
「え?」
話が読めずに聞き返す僕に、
あの子はヘラっと笑いながら、消し忘れていたその英単語を指差した。
「ほら、このbとeの丸っこいところが目で、yが鼻でさ。正面に向いた顔が二つ並んでるみたいじゃない?」
「……あ、あぁ、言われてみれば、何となく?」
「でしょ?」
そう言ってあの子は笑う。
その時、隣のクラスのアイツからあの子は呼ばれて
「ちょっとごめん、行ってくるね」
と、言い残して行ってしまった。
いいな。
粉まみれになったあの子の髪を撫でるアイツと
はにかむようにほほ笑むあの子の顔を見ながら、
僕は思う。
いいな。
byeとbyeは、お互いの隣にいるんだもんな。
そう思ったら、奇妙な顔に似ている英単語ですら
何だかひどく、うらやましく思えてしまった。
『君と見た景色』
スマホには、確かに残っているのです。
耀く海や、
鮮やかな花園。
きらめく夜景に、
風情のある街並み。
君と歩いた、数えきれない景色の写真が。
だけど、ボクの記憶の景色は
全部ぼやけているのです。
君の笑顔を見ているだけで、
僕はもう満足なんだから。
『手を繋いで』
ただ、それだけで痛みが和らいだ。
「大丈夫よ」って苦笑いする母さんと行った
小児科の予防注射。
ただ、それだけで勇気が湧いた。
寝ぼけ眼で文句を言ってた兄ちゃんと歩いた
夜中のトイレへの廊下。
ただ、それだけで幸せになれた。
「やっと繋いでくれたのね」って、
はにかんだキミと歩く
初デートの帰り道。