芝草

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『bye bye…』


「なんか、顔みたいに見えない?」

英語の授業の後だった。

たまたま今日、日直になった僕とあの子が
英単語で埋め尽くされた黒板を
粉まみれになりながら消していた時。

あの子が不意にそう言った。

「え?」

話が読めずに聞き返す僕に、
あの子はヘラっと笑いながら、消し忘れていたその英単語を指差した。

「ほら、このbとeの丸っこいところが目で、yが鼻でさ。正面に向いた顔が二つ並んでるみたいじゃない?」

「……あ、あぁ、言われてみれば、何となく?」

「でしょ?」
そう言ってあの子は笑う。

その時、隣のクラスのアイツからあの子は呼ばれて
「ちょっとごめん、行ってくるね」
と、言い残して行ってしまった。

いいな。
粉まみれになったあの子の髪を撫でるアイツと
はにかむようにほほ笑むあの子の顔を見ながら、
僕は思う。

いいな。
byeとbyeは、お互いの隣にいるんだもんな。

そう思ったら、奇妙な顔に似ている英単語ですら
何だかひどく、うらやましく思えてしまった。


3/22/2025, 1:40:57 PM