『愛−恋=?』
ちょっとだけ、
からかってやろうと思ったの。
数学のテストで
追試ばっかり喰らってる私に向かって
毎回ドヤるキミに、仕返ししたかったの。
そんなに数学が得意なら、
解いてみなさいよって。
問題の式を書いたノートを見たキミは、
大きな瞳を見開いたあと、
すぐに、ペンを走らせた。
考えるまでもねーよ、なんて言いながら
キミが突き返したノートには
小さな円が二つ、横にくっついて並んでた。
なんなのこれ、って
首をひねってたずねた私に、キミは短く解説した。
愛は無限だけど、恋は有限だろ。
無限から有限を引いても、無限だろ、と。
だけど、やっぱり。
私には小難しい理屈だから。
ずぅっとキミが大好きだよ、
の一言で十分なんだけどな。
『梨』
「花梨は喉に良いのよ」
風が少し冷たくなった時期の、
母さんの口ぐせだった。
それは、たぶん。
風邪をひいた私が
毎度、喉を腫らしてしまっていたせいだろう。
そして、どうやら。
私の風邪の引き方は、娘に遺伝したらしい。
風が少し冷たくなった、ある日のこと。
タチの悪い風邪を引いて、
すっかり喉を腫らしてしまった娘に
私は花梨のお茶を淹れる。
「花梨は、喉に良いのよ」
なんて、言いながら。
『未知の交差点』
みんな、どこへ行くのでしょう?
天を突くような、巨大なビルに周囲を囲まれて。
縦にも横にも、斜めにも、入り混じる横断歩道を。
みんな、一斉に、各々の道を歩いてる。
まっすぐ歩けないほどの人の中。
私の足は、ちょっと止まる。
みんなは、どこへ行くのでしょう?
私は、どこへ行けばいいのでしょう?
『秋恋』
きっと、これは、秋のせい。
いつもの通学路に吹く風が、
ちょっと肌寒くって、寂しくなるのは。
きっと、これは、秋のせい。
いつもぶっきらぼうな君が、
くしゃみした私に「大丈夫か?」なんて。
きっと、これは、秋のせい。
いつもは全然気にならないのに、
君にもらった「大丈夫か?」が、
ずぅっと頭の中で、こだまするのは、
きっと、全部、秋のせい。
それとも、もしか。
恋のせい。
『静寂の中心で』
私の世界は騒がしい。
ひっきりなしに鳴る通知。
いいね!だけでもつけとこか?
私の世界は騒がしい。
次々に流れるタイムライン。
次は何を追えば良い?
私の世界は騒がしい。
だから、ちょっと逃げたくなった。
静寂の中心へ。
四角い画面を抜け出すと、
まぁるい月が浮かんでた。
今日の月は、ひとりじめしようかな。