コポコポと音がする。
ドリップコーヒーにお湯を注ぐ音だ。
抽象的なお題ばかりだなぁ。
と、ふてくされる。
愛情とはなんぞや。
これは紛れもなく!と思ったら、ただの恋慕だったり。
過去を振り返ってみた時に、「あれって愛がなくてはできないよなぁ」としみじみ感じたり。
向こうが思いも寄らない所で感じていて、後になって聞き「え!あんな事で?」と拍子抜けしたりする。
そう考えてみると、瞬間的に沸き起こるものではなくて、長い時間をかけて滲み出てくるものなのではないか。
ぬか漬けの旨味のように。
濃すぎても薄すぎてもだめ。ちょうど良い塩梅を見極めるのが大事。
与える方も与えられる方も、じわぁーっと出てきた旨味を味わうと、なんだか心がホカホカするのだ。
意味があること
意味がないこと
誰がわかるかそんなもん
勝手に決めつけられるなんて
勝手に決めつけるなんて
大きなお世話
赴くまま 行けばいい
赴くまま させればいい
「ワハハハハ!」
TVから大勢の笑い声が聞こえてくる。
漫才師が観客を賑わせているのだ。
ソファに座っていた俺は、思わず笑って、妻の方を向いた。
シュッ。シュッ。
妻は、ダイニングのテーブルにへばりつくように、布を広げて作業をしている。線を書く折にチャコペンを布に走らせる音だ。作業をしている妻の顔は、恐ろしく無表情だった。
空中に放ってしまった自分の馬鹿笑いが、乾いてパラパラと落ちるようだ。
慌てて妻が怒りそうな今までの自分の所業を振り返る。
…どれだ?
考え得る全ての扉を開いたが、見つからない。まだ、自分が気付いていない妻の地雷への扉があるというのか…?
その時、パンッと定規を置く乾いた音がした。
「よし!一区切りついた!お昼ごはん何が良い?」
妻は清々しいほどの笑顔で俺の方を向いた。
リビングの窓から差し込む日差しが、暖かく感じられた。
なになに?
今日のテーマは
『哀愁を誘う』
だと?
そんな物悲しい気分にさせる言葉など、俺はぜってぇ使わねぇ!
俺は「哀しみ」なんて言葉は似合わねぇ男よ!ポジティブシンキングな男なんだよぉ!
駅前は、今から家路につくであろう人々でごった返していた。
彼は、寒空の下、噴水広場の前でいきなり叫んだことになる。
突然、わけの分からないことを叫んだその男を、通りすがりの人々は訝しげに見ていた。