いちさん(えいのーと)

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1/25/2025, 10:28:42 AM

終わらない物語

※土日祝はお休みです。

1/24/2025, 11:49:17 AM

やさしい嘘



すごく似合わない髪型をしている奴がいた。
服装も微妙なセンスで酷かった。
家も貧乏らしく、塾にも行っておらず、
基本的な事ができてない奴だった。


だけど悪い奴じゃなかった。

そいつがこれどう?と
着ている服を指して聞いた時、
自分はいつでも良いね!と言っていた。
一緒にいてメリットがなく、
だからといってデメリットがあるでもなく。

そいつのことがどうでも良かったからだ。

どうでも良い奴だったから本当のことを言わなかった。
どうでも良いからといって笑う気もないし、
好きで来てる服や髪型にケチを付ける気もない。
傷つける気もない。
だからいつでも良いね!と言っていた。

やさしい嘘というやつだ。


進学先が私立と公立で分かれたら
自然と会わなくなった。
元々成績も家庭環境も異なる奴だったから、
住む世界が違ったんだろう。


そう思ってそいつのことは忘れていっていた。


大学に入ってから部活の交流会で違う大学の奴と
飲む機会があった。
凄く垢抜けたイケメンがおり、
しかし何か見覚えがあった。

え、あいつじゃね?
一緒目が合ったが確信が得られない。
近くの席に移動して様子を伺う事にした。

そいつは別の奴の愚痴を聞いていた。
見た目が理由で振られたらしい。
お前みたいなイケメンにはわかんねえだろうなと
言われたとき、唐突に話し始めた。

オレの親毒親でさあ。
わざと変な髪型に切ったり、
みっともない服着せて似合う似合う言いながら
酒飲むとバカにしたり笑いものにしたりしてたんだ。
すげえ嫌だった。

みっともない姿が嫌でクラスの奴にどう?って聞くと、
いつも良いね!っていう奴がいてさあ。
最初はそいつのこと凄えいい奴だと思ってたんだ。
友達だって思ってた。


でも別の奴が、聞いてきたんだ。
“お前好きでそんな格好してんの?”って。
違うって答えたら、話を色々聞いてくれて、
勉強教えてくれた。

“今の俺には勉強教えるくらいしか出来ない。
出来るだけ遠くの学校に行くんだ。
成績が良ければ返済不要の奨学金が取れるぞ”

そう言って高校卒業するまで
勉強に付き合ってくれた。


親元から離れて自由になってから、
自分が何着て良いか、何が好きなのかもわかんなくて
めちゃくちゃ悩んでた。
少し愚痴こぼしたらそいつ真剣な顔して言ったんだ。


“実は俺もわからん。俺も親の言うなりにしてた”


一緒に相談しに行こう、って
トータルスタイリングの指導してくれる
美容師のとこ行ってトレーニングしたよ。
そして出来たのが今の俺。
あ?一緒に地元出て割と近所に住んでんだよ。
頭の出来違うから学校は違うけどさ。

お前見た目で振られたって言ってたよな?
見た目は変えられるぜ?
気になるなら紹介するぞ?


その人教えてくれー!と相手が飛びついたので
スマホを出して情報を教えている。
少し気になる、自分も知りたい。


教えた代わりにもう少しだけ
話聞いてくれよ。


一緒にトレーニング受けた奴だけどさあ、
何も変わらなかったんだよ。
トレーニングしてみて気づいた。
俺、このスタイルが一番似合う
って言って変えないんだよ。


そこでようやくオレも気づいた。


ファッションがわからないって嘘だったんだった。


オレが一人で悩んで不安そうにしてたから、
わからないのはお前だけじゃないって
支えてくれたんだ。
金も時間もかかるのにさ。


良い奴だろ?今でも親友だよ。
オレバイト掛け持ちしてるから
あんまり会えねえんだけど、
月一くらいでゲームして飯食って
一緒に勉強してる。
凄え坊ちゃんだし、たまに天然だし
時々宇宙人になるし、俺とは住む世界が違うんだけど、
一緒にいると面白いしなんか楽しいんだよ。
俺以外にも友達多いんだけど、
今でも会ってくれるんだよ。

あ?愚痴聞いてやったんだし、
俺の話も聞けよ。
くくく、お前は愚痴を言った時から
俺の罠に嵌ってたんだよ。
ダチの自慢トーク聞かせる相手が欲しかったんだよー!
聞け!俺の惚気話!!

そう言いながらそいつは笑っていた。


自分はトイレと言って席を立った。


昔の学校の友達の顔なんて覚えてない。
あいつの言う良い奴が誰かわからなかった。
多分、そいつにとって自分がどうでも良かったからだ。


俺、そんなに長く続いてる友達いねえわ。



酷く惨めになった。



1/23/2025, 1:57:09 PM

瞳を閉じて


すみません、おやすみします。

1/22/2025, 1:55:37 PM

あなたへの贈り物



※本日お休みします。

1/21/2025, 2:55:37 PM

羅針盤


シャキシャキと妹の髪を切ってやる。
その髪はまっすぐで細くも太くもなく、
大抵の女の子が嫉妬する髪質だ。

母は美容と健康を考えてる管理栄養士、
父はカメラマン兼動画クリエイター兼YouTuber。
自分が生まれる前から
メンズメイクに力を入れていた人だ。

そんな二人の間に生まれた自分と妹は
物心つく前から美と健康と人に見られることを
刷り込まれている。
息をするように筋トレをして、瞬きするように
カロリー計算と栄養バランスを弾き出せる。

しかし両親は二人とも容姿そのものが
良いわけじゃない。
優れているわけではないが、人目を引く姿をしている。

髪の色、肌の色、艶、長さ、小綺麗さ、
体格と筋肉のバランス、服装。
あらゆるところに気遣いをした結果、
周りから”素敵”という評価を手に入れている。

自分も不細工とは言わないがどちらかといえば凡庸で、
両親の影響がなければブサ系や陰キャに
振り分けられていたと思う。
髪質改善、こまめな散髪、肌のメンテナンス、
筋トレ、柔軟、生活習慣、
歯列矯正と色々手をかけてくれたことに感謝だ。

見た目は大事だ。
人は見た目じゃないというが、あれは嘘だ。
顔がまずいと人格歪む奴が多い。

どんなイモでも身なりを整えてやると顔が輝く。
その顔が好きで美容師になった。
髪だけじゃなく、メイクもパーソナルカラーも
骨格診断もファッション相談もなんでもやってる。

男でも女でも見た目を気にしてるなら
自分のところに来ればいい。

そのどんよりした曇り顔、晴れにしてやんよ。

そんな気概をもって日々鋏を握っている。

しかし、今髪を切ってる相手はそうではない。

美人で評判だった母方の祖母に似た妹だけが
人形みたいな容姿に生まれついた。
あまりに可愛いので
父があらゆる媒体で記録をとっており、
妹専用のデータ保管棚が父の仕事部屋にある。

父も母も妹の容姿に色めき立っているが、
本人は小さい頃から妬まれることが多い上、
唐突に友達から嫌われたり、物を隠されたり、
変質者に付き纏われたりするので
悪いよりは良いかもだけどそこまで…。
という感じだった。

身なりは整えているが、あまり嬉しそうではない。
いつも地味に無地のトレーナーやパンツルックで
俯きがちにしている姿は
兄として気がかりだったが、
今の学校に入ってから様子が変わった。

お兄ちゃん、私もっと可愛くなりたい。

色々教えて!

思春期か?と思ったが、友達ができたらしい。

友人がニコニコ笑いながら
可愛い、可愛いと褒めてくれるのだそうだ。
その褒め方が今までの友達とは全く異なり、
素直に心から誉めてくれるのが嬉しいのだそうだ。

可愛い可愛い言うてくれるんやけど、
そんなこと言うお前の方がかわいいわ〜言いたい。

てれてれと恋バナのような友達トークをする
機会が増えた。

その子は少しおっとりしているらしく、
一軍女子にタゲられることもあり、
そんな時、自分の容姿が威嚇に使える事に
気づいたらしい。

おお、スクールカースト。
美少女の地位は高い。
妹は友達を守るために己の容姿を武器にすることを
決めたようだ。

筋トレを増やし、歩き方レッスン、食事のマナー
スキンケア、ナチュラルメイク、
元々の素質が良いので、気合を入れるようになったら
太刀打ちできる同級生が存在ないだろ、という
レベルになった。


シャキシャキと毛先に鋏を入れる。
切り終わったので乾かしてやる。

天使の輪が美しい完璧な姿に仕上がった。
うーん、我が妹ながら見た目が良い。
メイクしてやったらもっと映えるだろう。
伸び代でけえなあ。

思わず感心してしまうが、
本人はこれどうかな、と意見を求めてくる。
自分の容姿について客観的に良いと理解はしているが
嫌な記憶がこびりついているのか、
堂々と私は可愛いとは言わないのだ。

なので、変な嫌味を言わずに
俺の腕を疑うなと言ってやる。
あとは髪のセットの仕方だ。
いくら綺麗に切り揃えてやっても
自分でヘアセットできなければ魅力半減だ。

真剣に聞き、よし明日やってみると気合を入れている。
妹は、他の誰より友人に褒められるために
容姿を磨いている。


うちなあ、ここみちゃんに可愛い言われるのが
一番嬉しい。
ここみちゃんの笑顔が見たいねん。
あと、半端な一軍気取りがここみちゃんに
余計なこと出来んように上目指したる。
何か言いたかったら
うちより美しゅうなってから来いやオーラ出したる!

この年頃だと男の気を引くために
容姿磨きするもんだが、
妹は友人を守り、友人から褒められることだけを
目標にしておのれを磨いている。

この業界にいると性格ブスの美形というのに
いくらでも出くわす。
そんな奴らみたいになってくれるなと
つい祈ってしまう。

妹は。

容姿に天狗になることもせず、
男を手玉に取ることもせず、
ただ楽しい時間を一緒に過ごせる友達が好きで、
毎日が楽しいと、実に健やかに育っている。


そのここみゃんという子が妹の羅針盤なのだろう。



どうかコイツが方向間違えた歪まないよう、
優しく手を振ってあげてくれ。


ヘアケアのやり方をスマホに打ち込んでいる
妹を見ながら、兄は無言で祈った。



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