いちさん(えいのーと)

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12/4/2024, 2:00:01 PM

夢と現実


みなさん、今日も集まってくださりありがとうございました!
また来てくださいね。
バイバイ!にぱ〜。


しばらく同じ顔で停止した後、
ふうーとため息をつき表情がなくなる。

お、事故か?

カメラが止まるまで画面を眺めていた視聴者が
コメントを付けず様子を見始める。


ここから愚痴モードに走ってくれれば
炎上チャンスだ。
普段我々から金と時間を奪うVチューバーが
真実の姿を晒してくれれば、お仕置きの愉悦を楽しめる。

さあ晒せ、お前の本性を。
俺は人間の真実の姿が見たいんだ。



じっとりと眺めている視聴者は数名。
アカウントを確認したらどいつもこいつも見覚えのある
アイコンをしてやがる。
廃課金勢だ。


これは、面白い。


悪趣味な笑いが込み上げて来る。
録画できるよう設定をいじりながら、
次の発言を舐めるように待つ。


あー、終わった。今日も緊張したわ〜。
うー、肩凝る。ストレッチストレッチ。
無の顔からうええという顔になり、
親父のような唸り声を上げながら

肩を抑え首を回し始める。


みんな楽しんでくれたかなあ。
あーもう、色々メモってんのに、
喋ってる時パーになるんだから。ほんとポンコツ。
このネタ話忘れたし。
あーもう。もっとすごくなりたい!
今日もたくさんスパチャ貰ったんだから、
払った分楽しんで貰わないと!
あーなんで計画通りにいかないのかなー。




醜い愚痴が始まるかと思えば一人反省会が始まった。

今日の配信の予定はこれだったのに
ここで進行をミスった。
あそこで噛んだ。
発音悪くて恥ずかしかった、ボイトレ強化だ、


そこにいたのは期待した醜い本性を表した女ではなく
普通の女の子だった。

え、なんか良い子だし?
いや、元々そんなに醜いもの見たかったわけじゃねえし?
裏垢で回して炎上プランとか練ってねえし?
こういう放送事故映像もお宝だし??


言い訳が頭にぐるぐる沸いている時、
一行コメントが流れた。



“カメラ切り忘れてますよ”



え?やば。



そこで配信は途切れた。


醜い姿が見れなかった舌打ち感と、
それを期待した自分への恥と、
コメントを流したやつグッジョブな気持ちと、
最後にいいもん見れたぜという満足感が複雑に混じり合い、
なんだかいい気分だった。



次の配信ではスパチャを弾もう。



そう決意してソシャゲに切り替え、
ログインボーナスを貰うことにした。



ククク、餌は撒いた…。計画通り。
カメラのスイッチを切った配信者はニヤリと笑う。
夢を売る商売でリアル見せるほど素人じゃないんだわ。



さて、明日の配信はいくら稼げるかな。
明日の皮算用をしながら
配信機器を片付けて、ナイトルーチンに入る。



肩が凝っているのは嘘ではないのだ。



















12/3/2024, 3:24:43 PM

さよならは言わないで



「ねえ、お願い。さよならは…」
「言うよ?さよなら」


目を潤ませて訴えかけようとした言葉をばっさり。
それまで悲しそうな表情で目を潤ませていた女は
マッハで鬼のような表情となり、
歯軋りと唸り声を上げてビンタを一つかまして立ち去った。


仕事だけどさ、仕事だけどやっぱ辛えわ。


自分はその日その場で仕事が変わる便利屋だ。
今日は別れさせ屋さん。

Vチューバー相手に廃課金し、
親の金まで使い込んだ男の叔父が依頼してきた。

頼むから目を醒させてやってくれと。
彼からすると、甥にあたるクズはどうでもいいが、
親である兄は大学に通いながらバイトをし、
その金で自分を養ってくれた恩人らしい。

兄貴が不幸でいるのが耐えられん。
涙を浮かべる依頼人に、
甥ってどんな子?
理由もなくクズって呼んじゃダメだよ。
と尋ねてみたら、無言でスマホを差し出された。
見るとSNSのアカウントだ。

美少女アイコンでひたすら女と思われるアカウントへ
へクソリプや罵倒を送り、
盗撮アカウントをフォローし、
女性の自立を促すアカウントへ炎上を仕掛け、
同類の仲間とリアルタイムで盛り上がっている。
そしてVチューバーに廃課金して、
リアルでもストーキングしていた。

推しVのアカウントをチェックすると、
出掛けた先の写真が上げられたのと同日に、
同じ店で匂わせ風の写真をポエム付きであげている。
どうも本気で恋愛妄想に取り憑かれているように見える。
ここまで入れ込ませられるとは、このVやるなあ。

Vのアカウントをもう少し覗いてみると相当羽振りが良い。
フォロワー数はそこまで多くないが、
少人数制の限定配信やリアルでのファンミを開いたり、
コメントに律儀にピュアな返事をしたりして
女性経験少なめの男心をがっちり掴み、
太客を複数確保してる印象だ。
お布施の桁が凄え。

このVやるなあ。

少し感心した。


課金する金の出所は?小遣いやってんの?と聞くと
母方の祖母から引き継いだ不動産があり、
月30万ほどの不労所得があると言われた。
この祖母が孫に甘かったようだ。

それだけあっても親の金に手をつけるのか。

大学卒業後一度就職したが、給料の少なさにやる気を無くして1ヶ月で辞めてしまったらしい。
何もしなくても30万。汗水垂らして働くのがバカらしくなるよねえ。

そしてその後、転職するでもなく、
自立するでもなく、快適な引きこもり生活を続け、
親の寄生虫をやっているらしい。


あかん、フォローが出来ないクズだ。
年齢を聞いたら38歳らしい。
おお、不労所得で38年生きて、
やることが女の罵倒と女へのストーキングか。
これは開示請求が届く前になんとかした方が良い。

すまん、俺もうどうしていいのかわからん。

依頼人のおじさんが苦渋の表情を浮かべている。
お兄さんは我が子が社会復帰できるように、
現実で遊ぶ友達や居場所を作ってほしいと
行政にも病院にも相談に行き、講習を受け、本を読み、
自分達の接し方に問題が無かったかも含めて真剣に悩んでいるらしい。

夫婦だけで悩まず専門家に相談に行き、
息子を一方的に責めず、放置もせず、見守りを続け、
どうなって欲しいかのビジョンもあり、
自分達の振り返りができている。
ごく普通に息子への愛情があり、
常識の範囲内で対応が出来る親っぽい。

そんな人格者からでもクズは生まれるんだなあ。
お婆ちゃんがヤバめだな。深く聞くのはやめよう。



自分は何でも屋さんだ。
実はVもやってる。


本業だとこまめに配信して、
顔を覚えて貰い再生数を稼ぐのだろうが、
自分の場合飯の種ではなく話の種であるので、
配信は月一でだらだらと30分ほど生配信を行い、
20人ほどしかいないリスナーとだらだら喋っている程度だ。


そんなやる気のない配信でも
年に一度くらい万単位のお布施が飛んでくるので、
甥御さんのような人間が存在していることを知っている。


今回の依頼もVであるから沸いてきた。


まあ、やれることをやってみるけど、
無理かも知んないから期待しないで。

手付金をわずかに貰い、
残りは成功報酬でと言う約束で請けた、


そして結論を言うと
このVへの妄想を砕くことには成功した。

方法としては簡単で、零細Vチューバーとして
成功してる御方のお話が聞きたあいとDMを
送ったのだ。写真付きで。

割と簡単に食いついた。
なぜなら自分はイケメンで、
スーツ姿でキメ顔でポーズ取ってる手首には
ロレックスを巻いていたからだ。

背景はラグジュアリーなホテルの切り貼りだが、
背景より自分の顔の方が眩しい。
そしてロレックスはさらに眩しい。

普段は上場企業のビジネスマンだが、
副業をしたくて始めたVで伸び悩んでいた時に
あなたのことを知りました!と言う設定だ。


本当に簡単に食いついた。
リアルでも会うことになり、あっという間に
手を繋ぎ、指を絡ませ、いい感じ?の距離感まで近づいた。

ここで、今度行くお店こんな感じと高層階のホテルの
写真を送ったら、配信に写真を用いて、
いつ行くかをたっぷり匂わせしていた。


これは来るな。


予想通り来た。


白いスーツに薔薇の花束で決めた甥御さんを初めて見た。
これはほんまあかん。


早々に判断して、何も知らないさわやか好青年として
毅然とした態度を取ると、
ひとしきりVを罵り、
薔薇の花を振り回しながら地団駄を踏み始めた。

なのでそいつを抑えるふりをして耳元で囁いてやった。

「君のこと知ってるよ。お家も。森田誠也くんだろ?」


効果はてきめんで真っ青になり逃げ出した。
妄想の恋が破れ、身元が割れ、
さあ、これからどう出るかはまだわからない。

残されたのは王子様を見るような目でこちらを見て来る
やり手のVだ。

こっちも面倒だ。
これを片付けなければ。

ごめん、今の人を見て気が付いた。
やっぱりこんなの良くないよ!
ファンの人に申し訳ない!!
ボクが迂闊だった!!


多少芝居が強かったが、普段から芝居してるのは
相手も同じだ。

すぐさま空気に酔いそんな‥と乗ってきた。
どこまで本当かなあ?

腹の中で苦笑いしながら相手の出方を見る。

相手は私達これからじゃない、と
目を伏せているようでロレックスをガン見しながら
声を震わせる。

それでもか弱く可愛らしく見えるのだから恐ろしい。

お願い、と言い出したのでバッサリ切り、
そして盛大にビンタを受けた。痛い。


まあ、芝居の終わりには良いオチだろう。痛いけど。


周りの好奇の目を浴びながら飯を食って帰った。
依頼主のおじさんを呼び出し経緯を話し奢ってもらった。
流石はラグジュアリーなレストランだけに、
奢ってもらった飯代だけで依頼料として十分だったが、


成功報酬は数ヶ月様子を見てから、と言うことでまとまった。
え、まじでくれるの??
驚いたが、くれるなら貰いたい。


よろしくお願いしまーすと手を振って別れた。



一ヶ月後、飯代を超えた分厚い紙袋を受け取った。
甥御さん、誠也くんは唐突に自分が所有している
マンションのひとつに引っ越し帰ってこないらしい。


身元が割れたから逃げる。わかりやすい。
え?実家に怖いお兄さんが突撃したら
ご両親どうなんの?見捨てたの?
なんか伝えた?え?聞いてない??
自分のことしか考えていない様子にむかついたが、
おじさんは満足らしい。


あの親子は物理的に距離を置いたほうが良い。


少し離れて、息子がいない生活を経験した方が良い。
兄貴達も、あいつのことも定期的に様子を見に行くよ。


変な依頼を請けてくれてありがとうと
最後に深々と頭を下げて依頼人は帰っていった。


何だかなあ。


ご両親も叔父さんもごく普通の人だ。
逃げた奴が悪いと分かっていても罵りもしない。
冷静に事実を受け止め、見守る体制に入ってる。
生活費は自動的に手に入る。
経済的に困ることはないし、
あいつが孤独死する可能性は低そうだ。


恵まれてる、実に恵まれてる。



引きこもりの甥御さんが少し羨ましくなった。





12/2/2024, 2:45:28 PM

光と闇の狭間で



うお、眩しいな!

暗がりを曲がった途端出くわすハイビームのヘッドライトは目に染みる。

真面目な小市民ゆえ歩道を歩いていたので事故ることもなく、
ドライバーが睨みつけてくることもなく自動車は通り過ぎ、辺りは再び真っ暗になった。


暗い。


住んでいるアパートは駅から徒歩20分。
大通りから一ブロック内側に入る程度で、
カーテンを閉めないと街灯の影響で明るい。


こんなに真っ暗な歩道とか歩いたことない、怖い。


なぜこんな場所を歩いているかというと、
猫砂とキャットフードが無かったのだ。

猫砂はトイレ掃除すればあと一回くらいは使えるが、
キャットフードがないのは問題だ。
連日残業続きでネットで注文することを忘れ、
さらによろしくないことに、遊びに来る猫は
コンビニで買えるキャットフードが気に入らないらしく食べない。

空腹になったら食べるだろうと思い様子を見てみたが食べない。
高いやつなら食べるかと思ったら食べない。
強固に決まったメーカーしか食べない。

数日おきに来る通い猫であるため、
毎日確実に食えているかもわからず、
メシを期待してやって来るのに
食べられるものがないのは可哀想だ。
残業続きで姿を見ていない。
今日も来ていないようだが、既に一度来て待っていたかもしれない。
朝に顔を出すかもしれない。

そう思ったら普段買ってるメーカーを扱ってる店が近所にないか、検索して家を出ていた。


時間は夜の9時だ。

目当ての品を取り扱っているホームセンターには
行ったことがない。2キロ先にある。
国道に沿って大回りして行けば迷わず行ける。

閉店時間は22時だ。


シャカシャカと、
不審者ならないように精一杯気を配りながら、
エコバッグに財布とスマホを握りしめ早足で歩きに歩く。

最短距離ならもっと短いが、
ルートを見ると住宅地をくねくね曲がってわかりづらい。
歩いたことのない場所、しかも夜。
目印のない住宅地で曲がり角を一つ間違えたらアウトだ。

ここは!焦らず!目印の多い道を選ぶ!!


国道沿いの道をシャカシャカ歩く。
時折スマホに目を落とし、現在地と目印になる店をチェックする。
大丈夫、間違ってない、ちゃんと着く。

自分に言い聞かせながら、二車線の国道の脇道を歩く。
ホームセンターには閉店10分前に辿り着いた。
イメージより大きかったので、ペット用品コーナーまで
走ることになった。
目当てのメーカーは3種類揃っていたので全部買う。
猫砂も大きいのを買う。

ああ、間に合った。買えてよかった。


店を出るまでそれしか頭になかった。


店を出た途端、合計で3キロのキャットフードと
5.5リットルの猫砂が肩に食い込んだ。

どうやって帰ろう。

ようやく正気に帰った。


そして今。
近道の誘惑に負け住宅地を歩いている。
5分歩いてはスマホを確認、角を曲がってはスマホを確認。
もう22時30分を超えている。
人通りは無く、電灯の数も少ない。
一つの灯りの次までが遠く、とにかく暗い。

古い住宅街は年寄りが多いのか
電灯が付いている家が少ない。
中には雨戸を閉めている家もある。
最近の闇バイトに狙われやすそうな住宅地、という言い方は失礼だろうか。

真っ暗な道をスマホを頼りに歩く。
恐ろしいことにバッテリー量は20%を切っており、
利用をはじめてから4年目に突入している。
普段は予備バッテリーと充電器を持ち歩いて騙し騙し
使っていたが、
飛び出した時にそんなこと考えてる余裕は無かった。


肩に食い込む荷物が重い。
幸いなのは咄嗟に頑丈なエコバッグを選んだことだ。
おかげでエコバッグが重さに負けて破れ、
3つの猫の餌とひとつの猫砂を目の前にして
フリーズする未来だけは見えない。

ただ、バッテリーが切れたら帰る自信がない。
大丈夫、大丈夫だ。

ここからは真っ直ぐ一本道で、歩き続けると
川に突き当たるはずだ。川と言っても用水路みたいな川だ。
川沿いに北に向かえば最初に歩いた国道に出るはずだ。

暗い道を歩く。

肩だけで無く腰にも太ももにも負担が重い。
それでも一歩ずつゆっくり歩く。

自転車欲しいなあ、中古で良いからまた買うか。
盗まれた自転車に思いを馳せ、今ここに自転車があったら
ランランルンルンご機嫌で漕いでいただろう自分を妄想する。


妄想しながら歩く。川に突き当たった。
スマホを確認し、歩く方向を確かめる。
よし、こっちだ。逆に歩き出したらシャレにならない。

日中なら太陽の位置で方角がわかるが、今は夜だ。
ついてないことに今日は曇りだ。


ないものを嘆いても仕方ない。
自分を信じて歩き出す。
自分を疑い出したらスマホを見る。
画面を確認したら低電力モードになってしまった。

ドブのような水の匂いを嗅ぎながら
どのくらい歩いただろうか。

あった、出た、知ってる道だ!


川の対角線上にコンビニが見える。
たまにソフトクリームを食いに行くコンビニだ。


ここからあと20分くらいだ。


肩も足も腰も限界だったが、ゴールが分かれば頑張れる。


ひたすら歩いて30分後にアパートに着いた。
家のドアの前には猫がいた。


あぁ、良かった。メシをやれる。


ニャーんと無く猫を招き入れ、
取り敢えず前足と全身を拭く。

カリカリを注ぐ音に幸せを感じた。



そのまま猫と寝落ちして、充電していないスマホに叫び声をあげるのは次の日の朝だった。

























12/1/2024, 10:36:25 AM

距離

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11/30/2024, 12:18:17 PM

泣かないで

土日祝はおやすみ

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