『ねぇ』
「なに?」
愛おしい彼女。
僕なんかにはもったいないくらい、
優しくて、
賢くて、
ときには強くて、
素敵で…
そして、とっても可愛い彼女。
僕は彼女を愛せるなら、
なんだってする。
絶対に、幸せにしてみせる。
…誰に、どんなことを言われようとも、
僕の気持ちは変わらない。
『愛してるよ』
誰よりも、ずっと。
「見ろよあれ‼︎」
「凄い‼︎」
ヘッドホンをしていても騒がしく聞こえる近所の人達の声。
何事かと思ってヘッドホンを外し、2階の窓から覗いてみる。
子供から年寄りまで、みんな上を見ていた。
なんとなくそれにつられて、自分も空を眺めてみた。
空には今までみたことがないくらい沢山の星たちがキラキラと輝いていた。
『綺麗…』
あまりの輝きに、あまりの美しさに、
思わず、独り言がもれる。
ふと、急に静かになった。
どうしたんだろうと思いまた下を覗くと
みんな、何かをお祈りしていた。
祈りなのか、願いなのか、望みなのかはわからない。
でも、確かにこんな奇跡が起こったのだから、
祈りも願いも望みも、全部叶っちゃいそうだ。
自分も外に出て、
星空の下で、
星たちに、感謝を込めて。
「それでいいよ」
優しく微笑んで言う君。
それが諦めを意味するのか、
肯定を意味するのか、
私には、分からない。
私はただ黙って微笑み返す。
『本当に?』とは
怖くて、聞けなかった。
大切なものこそ怖いものってあるよね。
例えば
触れてしまえば壊れてしまいそうで怖い
大切なものを大切にするのが難しくて怖い
大切にしたいけど、どう扱えばいいのかわからなくて怖い
なくなってしまったら怖い
とか、いろいろある。
そんな不安の中で共通してるのは
『大切にしたい』を
『大切にしたかった』
『大切にすればよかった』
にしたくないことなんだよね。
「明日、世界が滅ぶんだって」
思わず、は?という声が漏れた。
「やだなぁ、冗談だって」
僕の反応にけらけら笑う。
『そんなのわかってるさ…
君が変な嘘をつくもんだから、びっくりした』
「あははっ、それは悪かったね。
でも今日はエイプリルフールだよ?
なんか一つくらい嘘つきたくない?」
ああ、だからか。
僕は日付けをスマホで確認して、ようやく今日がエイプリルフールなのだということを理解した。
「あれ?もしかして忘れてた?」
『エイプリルフールって特に何もすることがないから、ど忘れしてたよ』
「そんなことあるの?君は相変わらず行事に鈍感だね」
またけらけら笑い出した君を見て、言った。
『知ってるかい?嘘をついてもいいのは午前だけなんだよ』
君は笑うのをやめて、え?という顔をした。
『午前に嘘をついて、午後にネタバラシをするのがエイプリルフール。
君、午前に嘘をつくのはいいけど、午前にネタバラシしちゃったね』
ええ⁈うそ⁈と思ったよりびっくりした反応を見て、
思わず笑った。
『ははっ、冗談だよ。それはイギリスだけさ』
「え?」
『午前に嘘をついて、午後にネタバラシをする。これはイギリスだけだから、日本では今日中なら、いつ嘘をついて、ネタバラシをしても平気なんだよ』
さっきの仕返しだと笑って言ったら、
「ほんと、君ってそういうことあるよね!」
君もつられて笑った。
エイプリルフール
4月1日にはどんな嘘をついてもいい日。
だが、人を不快にさせるような嘘はついてはいけない日。
互いに笑って、平和に終わることがルールである。
どうか、
どこかで嘘をつき合って、その嘘で笑いあっていればいいなと思う。
…この思いが嘘なのか、きっと明日になればわかるだろう。