病室
病室の窓から差し込む月の光が、
とても綺麗と思うのに、
ぞっとするほど冷たく感じたことを、
ずっと今も覚えている。
私の名前
「私の名前ってなにか意味があったりする?」
むかし母に尋ねたことがあるけど、
特に深い意味などはなかったらしい。
ちょっとがっかりした。
この名前は気に入ってはいるけど、
なにか隠れた意味がないかって、
期待してたんだけどな。
それでも父がいろいろ字画を調べて決めてくれたそうだ。
――そうか。
意味はなくても、思いは籠められていたんだね。
視線の先には
「ねえ、」と呼びかけたら、
「どうしたの?」と柔らかく尋ねてくれる。
でも、あなたの視線の先に居るのは、
私ではないね。
知りたくなかったよ。
目は口ほどに物を言うなんてこと。
未来
過去より未来を知りたいと思っていたのは、
きっと幸せな未来があると信じていたから。
そんな保証なんてどこにもないのに。
この頃は未来を知るのは怖くなった。
私の手に負えない不幸な未来を知ったなら、
その日から平穏な毎日を過ごせるとは思えない。
好きな本
昔から本が大好きな子どもだった。
本があれば何も要らないと思うくらい。
だから好きな本はどれ?という質問はとても困る。いっぱいあり過ぎて、答えられないからだ。
その好きな本がまったく読めない時代があった。
およそ10年。
仕事しながら、妊娠、出産して、子育てをしていた時。
本を読みたいという気持ちさえ無くなって、
それが寂しいとも、
そもそも本を読んでいないことさえ気づかなかった。
何年か過ぎて、初めて気がついて、
あれ? 私、このまま本を読まない人になるのかな?
…それも仕方ないか、と諦められるほどだった。
きっかけはわからないけれど、
子育てが一段落した頃から、少しずつ本が読めるようになり、今はまた読むことを楽しんでいる。
物語に没頭する、
懐かしいあの感覚が戻って来た。
本は私を忘れていなかったんだ。
久しぶり、また会えて本当に嬉しいよ。