部屋の片隅で
「今日も元気そうだね」
一人暮らしの部屋の片隅で呟く。
そこには丸っこい緑の葉を茂らせたホンコンカポックを置いている。この子がうちに来てから2年ほど経っていて、この前高さを測ってみたら140cmを超えていた。
物言わぬ緑に話しかけながら、はたきで葉の埃をそっと払うと、艶のある葉がさらに光沢を増した。
このホンコンカポックは元カレからのプレゼントだ。
「花ってキレイだけどすぐ枯れちゃう」と私が溢していると、
「初心者向きって言ってたよ」と彼は子供みたいに得意気な顔で買ってきてくれた。嬉しかった。
でもその彼とは、ちょっとしたケンカがこじれて、半年前に別れてしまった。それもこの子は見ていた。
別れた時はつらくて捨てようとしたけれど、結局捨てられなくて今も一緒に暮らしている。
私はこの子を相手に話す癖がすっかりついてしまい、いろいろな話をしては落ち込んだ気持ちを慰めてもらっている。
まだ、彼との別れは納得できていない。でもいつまでもこのままではいられない。
「ねえ、もう捨てたりしないからさ。そろそろ吹っ切ってしまおうかな」
あんたはそばに居てくれるもの。
私はスウェットのポケットからスマホを取り出した。そして目を閉じて深呼吸を一つすると、リストから彼の連絡先を消した。
#111
逆さま
逆さまって、
あんまり良い意味では使われない言葉だけど、
逆さまに覗いた世界は、
いつもと違った景色が見えるんだ。
まるで魔法みたいに。
きっとあなたの周りもそうだよ。
だってほら、昔の人も股から覗いて言ってる。
青い海を天に見立てて、橋をかけて、
空に龍が飛ぶのだもの。
見つけてみてね。
※ラストの場所わかりますか?わかってもらえたら嬉しいです!
#110
眠れないほど
今日、キスをした。
いや、もう昨日になるかな、4時間くらい前のことだ。
君との初めてのキスを思い出しては、ため息をついている。
ベッドに入っても全く眠れそうになくて、寝返りを繰り返す。
柔らかい君のくちびる。
触れた時、少し震えて、ほんのり冷たくて、それから熱くなった。
あのみずみずしい果物みたいなくちびるの感触を、何度も頭の中でなぞっては身悶える。
胸が破裂しそうになる。
ときめきと熱で眠れないほどの夜。
いま君は何をしてるんだろう。眠れているんだろうか。
#109
夢と現実
「なんで助けてくれなかったの!」
「そんなことを言われても……」
「私を置いて逃げるなんて、ひどいよ!」
弱ったな。結構本気で怒ってる。
「ちょっと落ち着いて。……あのねえ、夢の中のことで怒るのやめてくんない?」
「普段のあなたのせいで、私がこんな夢見るんだから仕方ないでしょ!」
「あーハイハイ」
これは今朝の話。君の夢と現実の僕。ホント理不尽だよな。
でも君が、こんなワガママを僕にしか言わないのもわかってる。だから時々だったらいいよ。
#108
さよならは言わないで
あなたは準備をさせてくれた。
そのまま消えてしまうこともできたのに、
傷つくだろうと私のために時間をかけて。
だから寂しいけれど、恨みはしない。
今は笑って見送ろう。
いろいろ思い出をありがとう。あなたと過ごした時間は私の大事な宝物になりました。
あなたを決して忘れない。
いつかまたどこかで。
#107