さよならは言わないで
あなたは準備をさせてくれた。
そのまま消えてしまうこともできたのに、
傷つくだろうと私のために時間をかけて。
だから寂しいけれど、恨みはしない。
今は笑って見送ろう。
いろいろ思い出をありがとう。あなたと過ごした時間は私の大事な宝物になりました。
あなたを決して忘れない。
いつかまたどこかで。
#107
光と闇の狭間で
『戦場にも笑いはあるのだ』と、どこかで読んだ。
すぐそばに死が迫っていても人は笑い、そんな極限でも人は生きていく。人の強さと弱さ。
太陽を直視できず、暗闇では何も見えない。人は完全な光の中でも闇の中でも、生きてはいけないだろう。
そんなことを考えながら、今日も私は光と闇の狭間、明暗の混じり合うこの世界で呼吸している。
捨てられない自分を抱えている。
#106
距離
いくら便利になって、ビデオ通話やいろんな連絡方法が増えても、会うことには敵わない。
距離が遠く離れるほど、心も離れていく。それは寂しいけれどよくある話。
だからあの時、私たちは必死だった。
お互いの気配をそばで感じたかった。二人でいれば大丈夫と信じてた。
なのに今、一緒に暮らしているのにすれ違う。目線が合わない。見るのはお互いの背中ばかり。
私たちはどこで間違えたんだろう。
二人でいるけど悲しいと思ったらいけませんか。
こんなに苦しいなら一人になりたい。
そう思ってしまうのは。
#105
冬のはじまり
一、朝、布団から出られなくなる。
二、長袖のヒートテックを着始める。
三、玄関から外に出れば、朝の冷たい空気に吐く息がほのかに白く見えた。冬がやって来たね。
四、会社の帰り、駅から家に歩き始めると指先が冷たくなってくる。まだ手袋を使うほどじゃないと、ポケットに手を入れる。
今、あなたと手を繋げればいいのにな、なんて思いながら。
#103
昨日は出先にスマホを忘れて間に合いませんでしたので、まとめて投稿します。
泣かないで
薄暗くなってから近所の公園に呼び出された。親に言い訳をして急いで向かうと、公園のベンチに従姉妹の姉ちゃんが俯いて座っている。あー、またか。ため息を一つついて、思った通りを声に出した。
「また、振られたの?」
「違う! 振ったの! 二股されてたなんて……!」
オレの遠慮のない言葉に、勢いよく顔を上げた姉ちゃんは噛み付くように言った。
まだまだ元気があるみたいだな。
「あいつ、あんまり感じ良くないって、オレ言わなかったっけ?」
「言ったけど……。優しい人だと思ったんだもの!」
四歳年上の従姉妹は、いつになったらオレの気持ちに気づいてくれるんだろう。
ずっと子ども扱いするくせに、こういう時は呼び出すなんてズルいよな。
「泣かないでよ。そんなやつと別れて正解じゃん」
自販機で買った温かいカフェオレ缶を渡して、隣に座った。姉ちゃんは鼻をすすりながら、ありがと、と呟く。白い両手が温かいカフェオレ缶を包み込んで、その手に涙が落ちた。
だから言ったのに。
腹だたしいけど、目と鼻を赤くして大粒の涙を零してる姿を見れば、やっぱり胸が痛むんだよ。オレならこんなに泣かせたりしない。
でも、泣くならオレの前だけにして。
早く大人になりたい。伸ばした手でそっと小さな背中を撫でた。
#104
終わらせないで
アンコールが始まる。
これで終わり。
この2daysのために、残業だらけの日々を頑張って来たんだから、
今夜は思い切り弾けてしまおう。
ざらざらした声のシャウト。
重低音が全身に響く。
突き抜けるようなハイトーンボイスに鳥肌が立つ。
衝き上げる拳と歓声。
お腹の底から声を出して。
会場の興奮が渦のようにうねって、螺旋を描いて高く高く舞い上がる。
どうか終わらせないで。
ずっとこのままで。
#102