付き合って6年。初めての高級レストラン。
どこか覚悟したようなあなたの目。
私はプロポーズされるのだろうと悟った。
料理も終盤。
あなたが席を立ち、私の横で片膝をつく。
柄にもなく様になっているその姿。
緊張がこっちにまで伝わってくる表情。
堅苦しい口調と、指輪を差し出し震える腕。
「この世の誰よりも幸せにする。」
キザな台詞を言うものだと、思わず笑ってしまった。
だけどそれ以上に、信じられないくらい嬉しかった。
幸せにするだなんて、大層なことを口にしないで。
あなたはただ、私の手を離さなければいいのよ。
そう言い指輪を嵌めると、
あなたは嬉しそうに微笑み頷いた。
一目惚れしたあなたの笑顔と重なった。
ぐさり。
聞こえないはずの音が鳴る。
君の言葉が心に深々と刺さっていた。
泣いてしまいそうになるけど、
君に悪意がないのは、痛いほどよくわかってる。
だから僕も、悲しい気持ちを押し殺す。
今日もまた、何気ないふりが上手くなる。
周りの誰もが君を軽蔑した目で見下す。
もはや社会の全てを敵に回した君は、
取り乱しながら僕に助けを乞う。
君を知る全ての人間が君の死を望み、
君を知らぬ全ての人間が見て見ぬふりをする。
この世のどこにも居場所のない君は、
この世の何よりも愛おしく思えた。
君が僕の腕にしがみつく限り、
僕は君の全てに応えよう。
君が僕の足にすがりつく限り、
僕は君とともに逃げよう。
彼らのハッピーエンドは、君が死ぬ未来らしい。
僕が君の手を払い除けるだけで、
全世界にハッピーエンドが訪れるそうだ。
つまり僕らのハッピーエンドは、
彼らのバッドエンドの上に成り立つものってこと。
君はその幸せの重さに潰されて生き続けてね。
僕がずっと眺めていてあげるからさ。
学年一の美人。
なんて在り来りの賛美を一身に受ける彼女は、
席が隣になってから、何故か僕をずっと見つめてくる。
数回しか話したことなんて無いから、
友達なんて関係でもない。
そんな視線を浴びる心当たりが無さすぎて、
友達からの挨拶もまともに返せなかった。
日に日に強くなっているように錯覚する程の視線。
その瞳に見つめられると、逃げられない気がして。
つい目を逸らしてしまい、横でくすりと笑われる。
なんでそんな目で見つめてくるんだと、
問い詰めたくもなるけど。
整った君の顔を正面から見るのがやっとで。
そんな僕も見透かしたように、
また熱い視線を送ってくるんだ。
好き、とはまた違くて。
愛してる、訳でもない。
それでも一緒に居たくて、
口から出るのは君の名前。
隣に居てくれないと落ち着かないし、
目に映るだけで安心する。
君が学校に来なかったら、僕も早退するよ。
君の部活が長引いたって、ずっと待ってる。
誰からも理解を得られなくたって、
君が居れば大丈夫だから。
依存だなんて言わないで。
君はきっと、特別な存在なんだよ。