悲しい事言われたって、
鼻の奥がツンっと痛んだって、
深く深く落ち込んだって、
周りは何も変わらない。
なら、わざわざ伝える必要も無い。
大丈夫。泣かないよ。
言ったって理解して貰えないし。
泣いたって同情されるだけだから。
大丈夫。笑えるよ。
いつもと何も、変わらないでしょ?
私の気持ちに、気づかないでしょ?
涙を零さないように目を閉じて笑ったら、
みんなも笑顔を返してくれるから。
昼も夜も変わらず頭上で光る星たちは、
いつの日か瞳に留まることが無くなった。
過度に眩く街並みが陽の真似事をして、
夜空の輝きを忘れさせている。
天象儀の中では虚像の星が溢れる。
実物よりも煌めくそれらを眺めていると、
何故だか酷く、空しくなった。
話している時、食べている時、遊んでいる時。
あなたはいつだって私を見てる。
時には楽しそうに目を細めて、
あるいは焼き付けるように目を合わせて。
あなたの視線はいつも熱くて、やわらかい。
なんでそんな風に見るのだろう。
ふと、気になった。
私の何があなたの視線を集めるのだろう。
あなたは私のどこを好きになったのだろう。
丁寧に手入れをしているこの髪?
血色の良い柔らかなこの肌?
あなただけを見つめる私の瞳?
もっと知りたい。もっと教えて。
あなたの見ている私は、どんな姿をしているの?
毎日のように愛を伝えてくれる彼。
好きだ!とか、大好き!とか。
私はそんな言葉に、いつも素っ気なく返してしまう。
わかってる。とか、どうも。とか。
だって恥ずかしいんだ。人前でだって憚らないし。
そんなんだから、友達に言われちゃったんだ。
愛想尽かされちゃうよ?って。
その時は誤魔化したけど、否定は出来なかった。
だってそんなこと、私が一番怖がってるから。
それでも素直になれない自分が、嫌いだ。
今日も彼は愛を叫んでくる。
大好きだよ!って。
いつものように照れ隠しの返事を言いかけて、やめる。
友達からの忠告を思い出したから。
言わないと、分かってくれない。
伝えないと、理解してくれない。
当たり前だけど、大事なこと。
私が今まで、出来なかったこと。
彼を悲しませないように。
愛想尽かされないように。
...愛を言い返せるように。
たまには、言ってあげるよ。
ちゃんと聞いててよね。
「私も、好き。」
ああ、きっと今の私、すっごく真っ赤だ。
愛してる。その言葉が最後だった。
他の女と関係を持ち、私の元を離れていった。
金も時間も誰よりも費やしたのに。
彼は私を選ばなかった。私を捨てた。
子を身篭ったとわかったのはその2週間後。
彼との子だ。確信した。
この子がいれば、彼はきっと戻ってくる。
彼は子供好きだったから、
子供が欲しくて他の女に移っただけよ。きっとそう。
私に中々子供が出来なかったから、
余所見してしまっただけよね?許してあげるわ。
私たちの間に子供が出来たと知ったら、
直ぐに私の元に帰って来るでしょう。
私との子なのよ。他でもない私の!
だって、だって愛してるって言ってくれたもの。
全てを捨ててでも帰ってくるに決まってる。
帰ってくるべきだもの。帰ってこないはずがないわ!
早く出ておいで。私のたった一つの希望。
「あなたをずっと待っているのよ。」