無人島に行くなら誰と行く?という問いに、恋人は私の名を答えた。つまらない答えだと素直に思った。当然会話は盛り上がらず、乾いた笑いが自分の喉から零れ彼が投げたティッシュがぼとりと燃えるゴミの底に落ちた。
浮気をしている人間を毛嫌いする彼が知らない女と無人島に辿り着いたらどうなるのか、寒さや飢えを凌ぐ2人に仲間意識以上のものは芽生えないのか、2人以外誰も見ていない空間で肌を重ねようとはしないのか、そういうことばかり考えてしまう自分に嫌気がさす。
男性の、性の部分を信じることが出来ない私は環境さえ整っていればきっとみんな弱いんだろうと失礼なことを思っている。昔の恋人にも「私より可愛くて胸が大きくて優しい子がいたら好きになってしまうでしょ」「誰も見ていなくて絶対バレないなら浮気しちゃうでしょ」と嘆いていた私は、いつまでも不安定な少女のままだ。
恋人は今日も背中を向けて寝る。浮気はしない。けれど背中を向けて寝るのだ。ゴミ箱から漂う温い匂いから顔を背け、不定期に光る私の携帯を握りしめてベランダへ向かった。
私は無人島で彼と知らない女の子を見守る波にでもなりたい。私がこの場にいないと思っている彼が、女の子に見せる顔を見たい。そういえば人魚姫は声を失ったんだっけ、と思いながら掠れた声で彼の名前を呼んだ。
返事はなかった。
半袖か長袖かを悩む季節になった。
夏の夜だけに感じれる涼しい空気が朝起きた時から肌に触れる。
歳を重ねるごとに季節が回るのが早くなり、この間は夏の暑さに悪態をつきながら早く冬が来て欲しいと願っていたのに、こうも急に寒さを感じると変化の無いまま過ぎていく日々に焦りも感じる。
20歳の誕生日を子供から大人に変わる節目だと思っていた私は、20歳をとうにすぎた今も自分を大人だとは思えない。
そもそも20歳の時は大学生だった。学生という立場で大人を自覚するのは私には難しかった。
新卒の私は退勤し、ちょうど今電車に揺られている。電車内に吊り下がる”20代で結婚、子供、マイホーム、キャリアアップ”と銘打つポスターから目を逸らし窓に移る疲れた顔を見て俯いた。
移り変わる景色のように進んでいく人生をこれからどう移ろっていくのだろうか。25歳で結婚し、子供を2人産んで庭のある家に住むという自分の中で作り上げた理想的であり当たり前の大人像をいつ建てられるのだろうか。
降りた駅で私を包む秋の風が急に冷たく感じてコンビニでおでんを買った。