以前入院していた時に
外には出れない毎日で
窓から見える景色をひたすら
仲良くなった患者さんたちと眺めていた
鍵が取手ごと外された大きな窓から見えたのは
薬局とスーパーとその駐車場とお墓と山と
それからその道を歩く人たち
いろんな人を観察していた
観察されていると思わずに楽しそうに過ごす人を見るのが好きだった
といえば聞こえは悪いけれど
いろんな人がいて楽しかった
仲睦まじい夫婦や
シルバーカーを押して歩くおじいちゃんおばあちゃん
走り回る下校児たち
駐車場にある自販機で必ず飲み物を買ってから帰る人
駐車場に停まった車を見るのも好きだった
私が好きだったのは濃い赤の車
毎日停まっている車を教えてもらって
「今日もいるよー!」
なんて会話をしていた
そんな毎日だった
闘病しながらも見える景色は明るかったから
病気と共に生きていくことも
きっと自分次第なのだと思っていたし
今も信じている
形の無いものと聞いて思い浮かべるものには
何があるだろう
心?
感情?
言葉?
気遣い?
人のものが多いよね
たとえば心にはれっきとした形がない
なのに自分の中に、相手の中に確かに存在している
感情は心や脳が感じるもので言葉にしようともそれが100%伝わることは中々ない
言葉は口から心から思考から出るもので形はないけれど相手に届けられる一番簡単で難しいもの
手紙として残すことは出来るけれど
気遣いは気付く人も気付かないひともいる
けれど無駄なことはない
目には見えない優しさだから届くものがある
あなたは形のないものと聞いて何を思い浮かべた?
公園でジャングルジムで遊んでいる子どもを見て
自分が子どもの頃は
ジャングルジムが凄く大きく見えたっけ
登るのが怖くてだけど楽しくて
ゆっくり登っていくのを思い出したら
なんだか人生と同じだなって思ったんだ
緊張する
怖くもある
だけど楽しくもある
ジャングルジムをゆっくり登るように
人生もゆっくり進みたいなと思った
懐かしい声が聞こえる
「こっちだよ」
どこから?
「まっすぐ進んでいけばいい」
言われた通りに道を進む
もう会えないと思った
会いたいと思わなかった
忘れてすらいた筈だった
けれど懐かしいその声は僕を導く
「きみの未来に私はいるから」
そう言った声が笑んでいたから
私は未来へ少し駆け足で向かうのだ
秋の恋
季節が変わって涼しくなって
人肌恋しくなって温もりに触れたくなって
少し落ちついた景色を見たくて
いろんなものを一緒に食べて
いろんなものを一緒に見て
本を読んだら感想を言って
疲れたら少し休んでまた笑い合う
ふたりとも秋が誕生日だから
また大人になるね
今度はどんな秋にしよう