薔薇には棘がある。
菊の花粉はアレルギーを起こす。
そして、あじさいには毒がある。
誕生日祝いに、彼女が手作りのチーズケーキを振る舞ってくれた。
琥珀色に焼かれた表面にフォークを通すと、中からしっとりとしたクリーム色の生地が姿を現して、チーズ特有の豊かな香りが漂った。
溢れる唾液を飲み込んで、私はそれをゆっくりと口元へ運ぶ。
「……これは!」
上品な甘味と濃厚なチーズの香りが口中に広がって、思わずため息が溢れてしまう。
なんだこれは、美味すぎるぞ。
チーズの香りがふんわりと鼻を通り抜けていくたびに、とても優雅な気持ちになる。
「しかも、この表面に乗っている紫色の花びら。ほどよい苦味がケーキの甘味へのアクセントとなっていて、全く飽きがこない」
彼女は私がケーキを食べる様子をじっと眺めていたが、目を合わせると、嬉しそうに目を細める。
「ほんと?よかった。頑張って作った甲斐があったわ」
このケーキを作るのに、一体どれだけの時間を費やしたのだろうか。
こんな素敵な女性に巡り会えた私は、本当に幸せ者だ。
うっとりとしたケーキの味わいに酔いしれた私は、
その幸福感とともにゆっくりと目を閉じた。
無垢な心を持って生きていく。
それがどれだけ難しいことか。
無垢なように振る舞うことはできるが、
それが本当の純粋さでは無いことは理解している。
自分の中から無垢が消えていくにつれ、
だんだんと世の中がつまらなくなっていく。
逃れられない運命に気付いた時、
そのどうしようもない絶望に、私は思わず大声を上げて部屋中を駆けずり回った。
そんな事をしたって何も問題は解決しないのに、
それでも私は叫び続ける。
やがて疲れ果て、全てを吐き出した頃。
ようやくベッドに横になり、明日を迎える。
君の目を見つめると、
そのキラキラして澄んだ瞳の中に、
醜い自分の姿が映り込んでしまっていた。
なんだかそれが無性に恥ずかしくて、申し訳なくて、
そんな自分が嫌になって、
どうすれば自分のことをもっと好きになれるのか、
今も悩んでいます。
太陽のような、月のような。
「どっちなんだよ」
よく昼間に出ている。
「ならそれは太陽だ。太陽が出ているから昼になるんだ」
よく欠けたり、穴の空いたような形になったりする。
「ならそれは月だ。月は半月や三日月になったりする」
だがそれは、月ではない。
「月ではないのなら、月ではないのだろうな」
そして、太陽でもない。
「一体それはなんなんだ」
そう、それは…