変わらないものは無い
太平洋戦争終戦後、僕はようやく失ったものの多さを理解した。
あまりにも多く、重く、残酷で毎日のように献花をする人がいた。僕もその1人。
僕には彼女がいた。人生で初めて愛した人で一生幸せにすると誓った人でもあった。戦場に出向く時も彼女と幸せになると誓った、のに、その願いも虚しく彼女はあの日落とされた爆弾によって灰になってしまった。
僕は運良く助かってしまった。ああ、どうして神様は何もかもを奪ってしまうのか。いや、神様のせいでは無い全て僕たち人類の欲がため奪われてしまったのだ。そんな世界が憎くて仕方がなかった。
そんな絶望に蝕まれた僕に一筋の光が見えた。
ある科学者に出会った。その人は彼なのか彼女なのかよく分からない人だった。何より不思議だったのは見たこともない服装をしていたのだ。近いものといえばこの国の敵国西洋の衣装にとても似ていた。しかしその容姿は僕たちと同じ人種であることは明白だった。そんな人が提案したのは彼女の遺品から人体蘇生をすることだった。初めて聞いた時はよく分からず、そんなことをするくらいなら死んでしまった方がマシだと思っていたが科学者に彼女と話してから死んでもいいのでは無いか。と問われ僕は自然とその言葉に納得しすることを決意した。その科学者はまず彼女の遺品を整理して欲しいとお願いされたので、とりあえず遺品を整理することにした。
そういえば僕は彼女が死んでしまったと聞いてから絶望していたこともあり遺品に手をつけなかったことを思い出した。
時計、ネックレス、ティーカップ、クマのぬいぐるみ、宝石の付いた指輪…宝石?こんな高価なものいつ買ったのかネックレスも僕がプレゼントしたものもあるが見たこともないのがほとんどだった。僕は不意に両親と彼女の両親の気まずそうな顔を思い出した。でも、もしかしたら彼女が死んだことを伝えるのに渋っただけかもしれない、そう思い僕はまた遺品を整理し始めた。
次に探したのは彼女の部屋の引き出しの中。
開けてみると中には無数の手紙があった。
親からの手紙、僕からの手紙、友達からの手紙、彼女と親しい人からの手紙が多くあった。
その次に下の引き出しに手を出した。しかし鍵がかかっており開けることができなかった。
鍵をかけるということに僕は少しばかりの不信感を抱いた。
人が鍵をかけるというのはなにかか隠したいものがあるときだ。
だとしても遠くに鍵を置くとは考えられないことから引き出しの周りを調べることにした。
するとベッドの枕に目をつけた。基本的には並んでおかれているものの一つだけ遠くに置かれあたかもどこに置いたか分からなくならないように配置された枕があった。もしやと思い手を伸ばす。
そこには箱のような硬さのものが入っており取り出すと案の定箱が入っていた。
そこを開けると鍵穴にピッタリの鍵があった。
その鍵で引き出しを開けるとそこには上の引き出しとは比にならないほどの手紙があった。その手紙は僕の親友との愛の手紙だった。思わず目を覆いたくなった。まさか、彼女が親友を愛していたとは。けれど僕の親友は戦争で僕を守って死んだ。彼女が死んだのも親友が死んだ日と同じであった。両親は知っていたのか。知っていたなら素直に言ってくれたら良かったのに。嘘をつかれた事実と彼女に愛されていなかった事実に僕は頭が真っ白になってしまった。
どれくらい経ったのか、カラスの呼ぶ声に目が覚めると気がつけば空色に澄んでいた空がオレンジ色に輝いていた。
そこには科学者がたっていた。
科学者は遺品は見つかりましたかと聞いてきた。
僕は無言で下を向いたままだった。
しかし思考はしっかりしていた。もしこの手紙を使えば彼女は僕を覚えているのか、親友の愛した彼女なのではないか。いや、もしかしたら一緒に過ごせば僕の愛した彼女になるのでは無いか。そんな考えもあった。
それを察したのかはたまた偶然かは知らないが科学者は
人はそう変わらないですよ。いくら衣食住を共にしても親友を愛した彼女であることは変わらない。それでもいいんですか。だとしてもあなたへの手紙を使ってもそれは彼女の本当の姿じゃない。
どうします?
そう聞いた科学者はまた窓の外を眺め始めた。
……彼女の本当の姿じゃない……
僕の胸にその言葉が木霊する。
確かに僕の送ったものでも彼女の本当の姿では無い。
親友の前だけが彼女の本当の姿を出すことの出来る唯一の時間。
そう考え僕は僕なりの答えを出した。
 ̄ ̄ ̄ ̄お父さん。
僕の前には僕をそう呼ぶ彼女が立っていた。
変わらないものは無い
僕はいつも独りだった。
家族は僕が物心着いた頃には既にいなかった。
今の時代は子供が餓死するなんてことほとんどない。たとえ親がいなくとも児相に引き取ってもらえれば食べ物はある。けれど、僕は誰にも助けて貰えなかった。僕に対して向けられるのは嫌悪の眼差しだけだ。だから、彼女に向けられる好奇心の眼差しが僕にはとても新鮮に思えなおかつとても嬉しかった。ああ僕を嫌う目じゃない。僕が化け物かのように蔑む目じゃない。たったのそれだけで僕は彼女に落ちてしまった。
そんなこんなで彼女と共に生活をしてもうすぐで1年が経とうとしている。普通なら嬉しいはずだが僕の気持ちはそこまで嬉しくはなくむしろツラかった。
クリスマス
僕にとってクリスマスは憎い日だ。サンタは子供に笑顔と好きなものをくれるはずなのに僕の元には来なかった。いや来ていたかもしれないが与えてくれるのではなく奪っていってしまった。なぜなら、クリスマスは僕の誕生日だからだ。クリスマスは神様の子が生まれた神聖な日なのに僕にとっては最悪な人生が始まってしまった日。あの日から今日までずっと悪魔の子、サタンの生まれ変わり、なんていかにも不吉なものみたいに扱うか言葉を散々聞いてきた。けど今そんな言葉を言われても気にならないほど僕は幸せだ。だから、今日限りでこの最悪な日を終わらせる。だからぼくは玄関でお利口に座って彼女の帰りを今日も待つ。
どうすればいいの?
私が愛した人がいなくなった。
そこに彼女はもう居ない。私の生きる意味が生き続ける意味が消えてしまった。私には生きる価値はもうない
けれど彼女は去り際私に生きろと言った。そんなの無理だ、君がいない世界をどう生きろというのだ。それはあまりにもあまりにも残酷で残忍な呪いの言葉だったのだ。
ああ、神様
私はどうすればいいのですか。
彼女のいない世界に生き続けろとでも言うのですか。
私は一晩中泣いた。泣いて泣いて泣いて目がりんごのようにまたは桃色のように熟れていた。
脳裏
「じゃあね」
そんな彼女の言葉が脳裏をよぎった。
あの言葉に意味はあるのかそれとも単なる別れの言葉か、それをひたすら考えては眠れなくなってしまった。
明日にはいつもの彼女があたかも当たり前かのように現れてくれるのか、それとも…
自身の感情達が討論を重ねに重ねやがてその討論は行き着く先を知らず感情達はごちゃ混ぜになる。
それは不安となって、自身を蝕む。自身の感情に自分が蝕まれるなんてとても滑稽なことだ。彼女がそんな私を見ればきっとバカだなと言うだろう。けれど今その彼女はいない。
放課後
授業が終わってそれぞれが部活に取り組んでいる。けど私は帰宅部だからそんな景色を見ずにそそくさと帰るのが日課だった。ただ今日は学校でしないといけない課題があったから、初めて放課後に居残りをすることになった。初めて居残った放課後はとても静かに感じた。もっと部活の音で慌ただしく騒がしいものだと思ってた。以外にも外から聞こえてくるのは多少の掛け声と吹奏楽と軽音楽の演奏だけ。外の音がなければこの教室は時間が止まったように静かになるに違いない。
カーテンを開けているから、夕方の日差しが私を明るく照らす。外の世界は幻想的だ。何事も視点を変えれば全てのものが異世界のように変化する。人は不思議だ、ひとつの景色をいくつもの新たな世界に変えてしまうのだから。私は最近流行りの曲を聴きながら、課題と向き合った。