「週末空いてる?」
「空いてる……といえば空いてるけど」
「寂しいヤツ」
「馬鹿にしてんの?」
「違くて。あのさ、私も空いてんだよね」
「親は」
「出てった。他に過ごしたい相手がいたみたい」
「ふーん」
「……なんか言ってよ」
「いや、お前から始めた話題だろ」
「ここまで言ってわかんない?」
「わかんないな〜」
「うっざ」
「………まあ、いいよ」
「何」
「終末、いっしょにいようよ」
明け方から降り続いた雨は、未だに止まないようだった。
「おかえりになるのですか」
女が言う。
自分がそうだと答えると、白い指が裾にまとわりついた。
「まだいいじゃありませんか。雨が止むまで」
そう言われ続けて、もう3日になる。
一昨日は霰が降り、昨日は雪が降り、今日は雨。
さすがに3日も主人が帰らないとなれば、気の優しい妻も黙ってはいられまい。
なによりここの味噌汁は少々味が薄い。
女のぬくい肌にも飽きてきた頃だった。
「外は寒いですよ、わたくしが温めて差し上げます」
寒いものか、と鼻で笑う。
季節は新緑生い茂り、入道雲がむくむくと泡のように立ち上がる夏である。たとえ五月雨が肩を濡らそうと、家では妻がタオルを用意して待っているだろう。
傘を用意してくれと、素っ気なく頼むと、女は黙り込んで動かなくなってしまった。
女の駄々は面倒くさい。ここはもうお暇するのだから、付きやってやる義理もない。
そうして窓枠にもたれかかって、外を眺める自分はついぞ気づかなかった。
夏に雪が振るはずもないことに。
ここが何処かと気づいていれば、幸せな夢が見続けていられただろうに。
午後17時31分。
その時間が来るまで、君はいつも憂鬱そうに本を眺めていたね。
今日も部活には顔を出さなかったの?
たとえ友達がいなくても、機会さえあれば出来ていた可能性はあったと思うよ、今はね。
鳴らない電話、必要のないアプリ。ひとりっきりの帰り道。
それらすべてが自業自得。行動しなかった君が悪いのさ、今ならそう思う。今ならね。
あの時、あの君が、あの場所で
行動したくて、出来なかったその悔しさと諦念を私は否定したくない。
もっといい未来が、とか、恵まれていたのに勿体ない、とか、後悔する日もあるけれど
それら含めて今の私に繋がってる。今行動したいという私へと繋がってるよ
あの日の私へ、ひとりぼっちの青春を謳歌しようぜ
ひとりで歩いてきた帰り道が今の私につながってる