七枝

Open App

明け方から降り続いた雨は、未だに止まないようだった。

「おかえりになるのですか」

女が言う。
自分がそうだと答えると、白い指が裾にまとわりついた。

「まだいいじゃありませんか。雨が止むまで」

そう言われ続けて、もう3日になる。
一昨日は霰が降り、昨日は雪が降り、今日は雨。
さすがに3日も主人が帰らないとなれば、気の優しい妻も黙ってはいられまい。
なによりここの味噌汁は少々味が薄い。
女のぬくい肌にも飽きてきた頃だった。

「外は寒いですよ、わたくしが温めて差し上げます」

寒いものか、と鼻で笑う。
季節は新緑生い茂り、入道雲がむくむくと泡のように立ち上がる夏である。たとえ五月雨が肩を濡らそうと、家では妻がタオルを用意して待っているだろう。

傘を用意してくれと、素っ気なく頼むと、女は黙り込んで動かなくなってしまった。
女の駄々は面倒くさい。ここはもうお暇するのだから、付きやってやる義理もない。
そうして窓枠にもたれかかって、外を眺める自分はついぞ気づかなかった。

夏に雪が振るはずもないことに。
ここが何処かと気づいていれば、幸せな夢が見続けていられただろうに。

5/26/2024, 2:54:55 AM