さよならを言う前に
久しぶりに会った父は変わらなかった
小さい頃はこういうものだと受け入れていた
独特のファッションも変わらず
今見るとなんて変な格好なんだろうと思う
けど、それすら愛おしく感じる
もう私も幼くないな
父を可愛いと思える程度には大人になった
姉と3人で食べる夜ご飯会は
父が一人暮らしになってから始まった
もう何回目かわからない
今日もたくさんのご馳走を食べて
満腹と幸せに満ちた帰り道だ
帰り際、いくつになっても姉は父に抱きつく
姉は愛情表現ができる人だ
すごいな
いつからか恥ずかしくてできなくなった
でも感化されて手を出した
握手は親子の別れ際ではおかしいし
と、ハイタッチのようになってしまった
私の手に父は手を合わせて
恋人繋ぎのように握り返した
ゴツゴツとした
‘’父の手”だった
強めの力で握られ、
元気でやれよか何か言われた
次に会った時、
私が初めて触れた物はゴミ袋だった
血だらけになった父の服達が入っている
いつも身につけていた、
あの独特のファッションたらしめるそれ達だった
父の手はもう私を握らない
変わらずそこにあるけれど
もう、握ることはできない
さよならの前に握ったあの手は
私にさよならを伝えたかったのだろうか
空模様
1番好きな空模様は、夜です。
月が薄い雲に覆われていて、
雲の流れがはやくて、
見えたり、見えなかったりする月が、
1番綺麗だと思います。
月の周辺がぼんやりと光っていて、
その部分だけ空の色が滲んで見える、
雲はうっすらと照らされて光り、
なんとも言えない幻想的な空模様です。
静かに私を見つめる月を
いつも私も見返しています。
いつまでも捨てられないもの
台所からの奇声
絶対に負けないと意地になって見開いた目
川に突き落とされる時の不安定な足場
縋った先で冷たくあしらう大人の表情
築いた小さな自信を踏み潰す笑い声
要らないと言われた時の真新しい部屋
地面に押さえられ虐げられる身体
加減のない指で掴まれる顎
葛藤しながらも抗えない怒りに踏まれる背中
しがみついても剥がされ締められる鍵
それでもどうしようもなく愛を求めて
洗濯の山に埋もれて嗅いだ匂い
布団から覗き見た暗い部屋の光
機嫌の良い時だけ選べる絵本
少しだけ繋いだ手
許せなくて
手放したくて
終点
何が終点だ
勝手に決めやがって
まだまだ生きていたいし
まだまだやりたい事があるんだ
なのにその意欲も萎むほどの
歳を重ねてしまっただけだ
見返してやりたいし
驚かせてやりたい
でもできないことを理解できるほどの
自分の器を計り知るだけの
時間を過ごしてしまった
無理だなんて
自分が1番思いたくないのに
自分が1番わかっている
すごいですね
さすがですね
貴重なお話ありがとうございます
そう言えばこっちが良い気分になるとでも
思っているんだろう
ああそうさ
哀れな人間だからな
なんてちっぽけなんだ
こんな存在で良かったのだろうか
後悔しかない
ここは終点
太陽
なにも書けない。
好きすぎるのだ。
あなたの事が
好きだ。
あなたの暴力的で残酷なほどのエネルギーが
好きだ。
何もかも良く見せてしまう眩しさが
好きだ。
強く、明るく、照らし、いつも去る時は呆気ない。
まだ来るな来るなと思えばすぐに来て、
早く来いと願えばなかなか来なくて、
絶望的な気持ちと
味わったことのない温かさを
強制的に与えてくる。
なんて理不尽な。
そんなあなたが
好きで
好きで。